2020年4月29日水曜日

「『やめて』と言うと居場所なくなる」東須磨小・教員間暴行の被害教員インタビュー

「『やめて』と言うと居場所なくなる」
東須磨小・教員間暴行の被害教員インタビュー

 

2020年4月29日(水) 神戸新聞

 

 神戸市立東須磨小学校(同市須磨区)の教員間暴行・暴言問題で、被害を受けた男性教諭(25)が、神戸新聞社のインタビューに応じた。繰り返された悪質ないじめに「居場所がなくなる気がして『やめて』と言えなかった」と当時の心境を振り返った。

 

■「やめて」と言うと居場所なくなる

 

 -東須磨小での出来事を振り返り、今の率直な思いは?

 

 「前を向けていると思う。今の職場の先生や弁護士、家族、友人に支えてもらって。誰も味方なんておらへんと思っていたのと違って、いろんな人に手を差し伸べてもらって、もう一度働ける喜びを感じて。言葉が正しいのかわからないけれど、東須磨でのことを糧にして頑張っていきたいなと思っています」

 

 -2017年着任からハラスメントが始まって、エスカレートしていったのはなぜだと思う?

 

 「何で僕が、ということですか? いろんな人間関係の中で生まれたことなんで、必ずしも僕にというのではなく、何て言うのが正しいのか分からないけど…(沈黙)」

 

 「自分は、人に優しく接しようとしていました。何かされてもあまりきつく『やめてください』と言えない自分がいて。『こいつ何も抵抗せえへんし、やってやろうかな』ってエスカレートしていっても、きつく『やめてくださいよ』とは言えなかった。そう言うと、自分の居場所がなくなる。でも、このままエスカレートしていくのもつらい。板挟み状態で、去年の9月には体調を崩してしまったという流れですね」

 

 -ハラスメントを受けてもきつく言い返さないことは、優しさだったか?

 

 「優しさではない。教師という立場で、子どもには『いじめられたら先生に言いなさい』と言っていたのに、自分自身は声を上げるのも怖い。子どものいじめと同じと思うんですけど。だから、優しいのではないです」

 

 -東須磨小に赴任当初から、職員室の雰囲気に違和感を感じていたか。

 

 「初めての学校なので、違和感というか、これが社会なのかなということを感じていた。ちょっと怖いな、2、3年後どうなっているんかなと不安を持って働いていました。呼び捨てや先生同士のかかわり方。ほかの先生のことを『あいつは仕事できひんから』とか言われていて、自分も陰で言われているんやろなと考えたら怖いなと」

 

■子どももしてええと思って当たり前

 

 -管理職はどうあるべきか。

 

 「(4月に異動した)新しい学校では少ししか働けていないけれど、親身になってくれて、いつか東須磨のことを笑い飛ばせるくらいになるまで頑張ろう、と声を掛けてくれる。今の校長先生には何でも相談させていただいている。校長にはいろんな重圧があると思うけれど、(当時)ちょっと耳を傾けてほしかった」

 

 -東須磨の先生はそういうところが足りなかった?

 

 「気に入っている人だけを気に入る。『あの人が仕事できひん』『うっとうしい』というのではなく、仲良く仕事がしたいな、と毎日思っていた。もし、僕が否定すると(矛先は)自分に来る。心苦しかったけれど、踏ん切りつけて頑張ってきたんですけど」

 

 -加害教員に言いたいことは。

 

 「(15秒ほどの沈黙)いまコメントを残すことが正解か分からないので、ちょっと控えさせてもらいたいです」

 

 -では、加害教員の行為が子どもたちに与えた影響はどう感じる?

 

 「子どもの心の傷は計り知れない。先生がこういうことしていたら、子どももしてええんかなと思って当たり前。子どもたちに『あの時、先生がやっていたやん』と道を踏み外すことはしてほしくない」

 

 「つらい局面には誰かに相談したり、いじめを見たら声を上げたりできる強い子になってほしい。簡単には言えない。自分もできなかったのだから。でも、そんな子どもにあなたたちにはなってほしい」

 

 -職員室には手を差し伸べてくれる人はいなかったのか?

 

 「結構いました。相談に乗ってくれたり、『あれはないですよ』と管理職に言ってくれたりした。みんながみんな、見て見ぬ振りではなくて。苦しい思いをしている人もいた」

 

■「東須磨=最悪」ではない

 

 -東須磨小でハラスメントを受けていたとき、子どもたちのどんな姿に救われたか。

 

 「子どもたちの存在が癒やしだった。子どもは敏感だから、体調がしんどいときとか、出していないつもりでも、『先生、しんどそうやな、大丈夫?』と声をかけてもらったこともある」

 

 「保護者の方も声を掛けて下さったり、手紙をいただいたりした。東須磨というのはしっかりした地域と聞いていた。(今回の問題で)全国から東須磨小全体が悪いととらえられているが、『東須磨=最悪』ではない。地域であったかい人もいる。東須磨小はいい学校なんですよ、というのを少しでもいいので分かってもらいたい。」

 

 -子どもたちから手紙や千羽鶴を送られた。

 

 「アニメキャラの絵をかいて、吹き出しで『先生がんばれ』と書いてくれたり、各クラスが千羽鶴を折ってくれて、3クラス分。3千羽。全員のメッセージが書いてある冊子みたいなのをくれて。先生がしんどい思いしていたのに気付かなかった、と書いている子もいた。大半が『先生がんばれ』『戻ってくるのを待っています』と」

 

 「(自分が)学級通信を書いていたんですけど、子どもたちがまねして書いてくれた。これから控えている行事やクラスの現状、音楽会の目標とか」

 

 -それを見て沈んでた気持ちがどうなった?

 

 「精神的にしんどくてぼーっとしていて、教師辞めようかなというときもあった。次にどんな職業かと想像しても、やりがいを感じられるかな、と。今回、つらいことはあったけど、子どもたちとの関わりや励ましてくれている子どもを思い出したら、もう一回、先生として働きたいという気持ちが出てきた」

 

■東須磨小の子どもとばったり会えないかな

 

 -そもそも、なぜ先生を目指したのか?

 

 「小学校6年のとき、友達と言い合いになって仲違いしたことがあった。その時に先生がうまく入ってくれて、仲直りできた。自分自身に勇気をもらった。その先生のかっこいい姿に憧れて」

 

 -子どもたちへのメッセージをお聞きしたい。

 

 「人っていうのはそれぞれ違うと思う。みんな仲良くというのは願っているけれど、なかなか難しい。だが、子どもたちみんなが学校に来たいと思える気持ちのいい学校生活を送ってほしい」

 

 -経験からできることは何か?

 

 「子どもたちがつらい顔をしていたら、真っ先に気付いてあげたい。(自分の経験から)漠然とした一言ですごく傷つくことも分かった。子どもたちにも小さな気付きをしていきたい。教師とその子の関わりだけでなく、その子と友だち、クラスの子との関わりを作っていくのが先生の役割だと思う。1対1で関わる時間は本当に限られている。でも、日頃から観察していればできないことではない。一人一人が笑顔で来られる学校を作っていきたい」

 

 -東須磨小では気付いてもらえないこともあった?

 

 「そうですね。つらいけどつらくないそぶりをしてきたことも、気付いてほしかったなと思うところもある。子どもたちなら『先生なんで気付いてくれへんの?』と思うこともある」

 

 -新型コロナウイルスで休校が続く。今はどんな仕事をしているのか?

 

 「家庭で勉強できる課題を作っている。教室の掲示物の作成や子どもたちがノートを忘れたら貸せるように印刷しておいたり、黒板に貼り付ける名前のシールを準備したり」

 

 -東須磨小の子どもたちとは顔を合わせずじまい?

 

 「そうですね。子どもたちと会いたいなとは思います。どんな感じで成長したんかな。ばったり会ったりできないかな」

 

 -新しい小学校では担任を持つ。

 

 「まだ一度も顔を合わせられていません。早く会いたいなという気持ちはあります。でも残念ではないです。今できることをして、楽しみに、楽しみに待って会った分、いいものがあるんかな。どんな子どもたちなのかな。どんな成長していくんかな。楽しみです」


《カウンセラー松川のコメント》

本記事は2021年8月18日に被害教諭に対して公務災害認定の記事を掲載した際、
当該事件についての理解を深める為に拙ブログ掲載致しました。
記事公表のタイミングは加害者4名の起訴猶予が決定した後です。
被害に遭われた先生の強さが記事に表れていると感じました。

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