「親の背中見て自分もなろうと…」
新人看護師
わずか半年で自殺の“なぜ?“ 北海道釧路市
2017年3月27日(月) 20:14 北海道文化放送
自殺した看護師、村山譲さん(当時36)
人の命を救う看護師。しかし、その看護師が自ら命を絶つ、痛ましいケースが相次いでいます。看護師として働き始めて、わずか半年で命をたった、北海道釧路市の病院に勤務していた男性看護師に、何が起きていたのでしょうか…。
少年時代の譲さん。兄弟の面倒をみる優しい子だった
親は共働き
「弟や妹の面倒みる優しい子」
自殺した村山譲さんの母
百合子さん(60):「4人兄弟の長男だったので、弟や妹の面倒をみて優しい子でした」
北海道室蘭市出身の村山譲さん。男性看護師として働き始めて、半年で自ら命を絶ちました。36歳でした。
共働きだった親に代わり、兄弟の面倒をみる、元気で優しい子だったといいます。小さいころから野球や陸上、スキーなど体を動かすことが好きだった譲さん。30歳のとき、どうしても看護師になりたいと、10年間務めた公務員を辞める相談を、看護師である母に持ち掛けました。
自殺した譲さんの母
百合子さん(60):「(親戚から)母親の背中を見ていたので、看護師になろうと思ったと言っていたと言われた」
大学時代の後輩は、「学年トップも取るなど、勉強熱心だった」と振り返る
公務員辞めて…「研さん積み、社会に役立つ看護師に」
大学時代の後輩は…。
大学時代の後輩:「最初のころは、学年トップを取ったりして、とても熱心に(勉強)していた」
36歳で、看護師の夢をつかんだ譲さん。釧路市内の総合病院に進むことを決意しました。目指す“看護師像“について、こう記していました
譲さんの履歴書のコメント:「災害看護に大変興味を抱いているため、貴院で研さんを積むことで、社会に役立つ看護師になれると思います」
希望していた手術室への配属が決まり、主に眼科と婦人科の担当になった村山さん。先輩看護師とのやりとりの中で、当時の状況が見えてきます。
4月の報告書より:「積極性をもち、学習を進める姿に頑張りを感じました。5月も一緒に頑張りましょう」
5月の報告書より:「5ccのシリンジで準備しなければならない薬剤を、10ccのシリンジで用意したことがあった」
先輩:「間違いは誰でもします。一緒に頑張っていきましょう」
当初は、励まされながら取り組んでいた譲さん。しかし6月以降、事故やミスを起こし、指導も厳しくなっていきます。
病院の報告書。6月には母親は異変を感じていた
先輩たち「患者さんを見ていない」「どうしてですか? 」
6月の報告書より:「6月12日、1cc(薬剤を)多く静注してしまい…焦りが生じた。サイズ間違い、目印を書き忘れた…」
上司:「患者さんを見ていない。できるかどうか判断するのは、自分ではなく周りです」
上司:「できる日と、まったくおぼつかない日があるのはどうしてですか」
ミスを起こした6月に会った母親も、異変を感じていました。
自殺した譲さんの母
百合子さん(60):「つらいとか、困っているとは言わなかった。(3月より)全然元気がなかった。体重も約5キロ減っていた」
譲さんは親に知らせず故郷、室蘭市に戻って散髪していた
大学後輩に「職場で得意でない方がいる」
これが母親がみた息子の最期の姿でした。7月、突然電話がかかってきた大学時代の後輩は…。
大学時代の後輩:「(7月には)“何とかやってる“と言うが、“職場で得意ではない方がいる“と話していた。本人なりの大きなメッセージだったのではないか…」
このころ、すでに不安感や焦りなど、社会に適応できない精神状態にあったとみられる譲さん。9月、親にも知らせず、実家のある室蘭市に戻りました。最後に立ち寄った理容店では…。
最後に立ち寄った理容店:「“すっきりした。これなんだ“と言っていた。悩んでいる様子は、まったく感じられなかった」
翌朝、実家の車庫で、変わり果てた状態で発見されました。
遺体近くのバッグから見つかった遺書
「おまえは、オペ室のお荷物だな」
自殺した譲さんの父
豊作さん(64):「(息子の)携帯に電話したら、着信のある携帯が近くにあり、(警察が)息子さんじゃないですか? と。顔が、息子じゃなかった…」
残されたバッグの中には、練習用なのか注射の器具、そして遺書が入っていました。遺書には当時の職場での様子が書かれていました。
村山さんの遺書より:「この6か月、注射係しかできませんでした…。先生に、『おまえは、オペ室のお荷物だな』と言われて確信した…。成長のない人間が給料をもらうわけにはいきません。6か月、本当に皆様にはお世話になりました」
遺書に、職場のことしか書かれていないことから、母親は、「パワハラ」があったのではないかと感じています。
自殺した譲さんの母
百合子さん(60):「(病院で)また、うちの医者が何かしましたか? と言われた。(労基署の調査に)皆さんが同じように涙を流しながら、何もなかったというのは、おかしいんじゃないか」
記者の取材に対し、医師は、「一緒に仕事をしたことがない。ほとんど口もきいたことがない」と答えた=2017年3月
遺書に名前の医師「一緒に仕事したことない」
当時、何が起きていたのか、病院に取材を申し込んだところ、「現時点でコメントは差し控えたい」と回答がありました。
現場でパワハラはあったのか。遺書に名前が書かれていた医師に聞くと…。
記者:「Q. パワハラがあったのか」
遺書に名前があった医師:「村山さんは、一緒に仕事をしたことが一度もない。ほとんど口もきいたこともないので、コメントできない」
記者:「Q. 遺書に名前があったが」
医師:「びっくりした。暴言を吐いたこともないし、パワハラなんかまったくない」
記者:「Q. 職場の“いじめ“があったのか」
医師:「そんなこと絶対ない。皆、一生懸命、彼に教えようと努力していた。青天のへきれきです」
当時26歳の男性看護師の息子に自殺された親は「もう忘れたい」と話した=2017年3月
自殺者“2人目“か
実は、譲さんが遺書に名前を挙げた医師のもとで自殺者が出たのは、これで2人目です。譲さんの7年前、眼科病棟で勤務していた、当時26歳の男性看護師が自殺していました。その遺族は…。
記者:「Q. 同じようなことが起きたが」
息子が自殺した遺族:「何とも言えない。もう忘れたい。まだパワハラをしているのか」
この件に関し、病院側は遺族に対し、「パワハラが原因ではない」と説明しているということです。果たして真実は何なのか。
遺影に手を合わせる母親の百合子さん=2017年3月
労災認定は「却下」
国に再審査請求へ
譲さんの母親は、労災認定を求めて、労基署へ申請しましたが、「人格や人間性を否定する言動は、確認できなかった」などとして、パワハラを認めず却下。北海道への審査請求も棄却され、現在、国へ再審査請求をしています
村山さんを支援する会は、この調査の限界も指摘します。
釧路支援する会
吉田岳彦さん:「証言をすれば“次は自分になるのではないか“。(パワハラを)見ていたら、同じ目に遭う危険性は感じる。本人が残した遺書に、“職場での言動“が引き金にある以上、無かったという判断ではなく、しっかり掘り下げて、二度と起きないようにしなければならない」
「まだまだ、あきらめられない」と話す譲さんの両親=2017年3月
遺族「何があったのか
真実が知りたい」
集まる情報が少ないなか、両親の思いは…。
自殺した譲さんの母
百合子さん(60):「何があったのか、真実が知りたい。なぜ、そこまで追い詰められたのか」
自殺した譲さんの父
豊作さん(64):「まだまだ、あきらめられない」
《カウンセラー松川のコメント》
遺書にどの程度の記述があったかはニュースからは不明ですが、
「おまえは、オペ室のお荷物だな」と発言した医師は存在すると思います。
この発言は人格否定と解釈することも可能です。
しかし、一度言われた程度では労災に於けるパワハラとはならないでしょう。
また、注射係しかやらせて貰えない件についても、
パワハラ6類型の1つである[過少な要求]に該当するか難しいです。
人体への注射は医師か看護師しか出来ない医療行為なので、
注射専門であっても看護師であれば[過大な要求]にきなりませんし、
新人看護師に対してならば[過少な要求]とも言い切れないです。
亡くなられた方の看護師への志望動機や、同病院での過去事例からすると
御遺族のお気持ちも分かりますが、
遺書だけで労基署の想定するパワハラに該当するかは難しいと思います。
しかし、病院側が「また、うちの医者が何かしましたか? 」
この発言は看過出来ません。
調査方法によっては病院側で日常的に不適切な対応があったことを
掴めるかも知れませんので諦める必要も無いでしょう。