2023年12月31日日曜日

▼なぜ自衛隊でハラスメント続く? 現役幹部自衛官の考察…解決のカギは「指揮」と「統御」のバランス?

なぜ自衛隊でハラスメント続く?
 現役幹部自衛官の考察…解決のカギは「指揮」と「統御」のバランス?

 

2023年12月31日() 6:00 日本テレビ

 

自衛隊が向きあう課題のひとつがハラスメント問題だ。元陸上自衛官、五ノ井里奈さんの被害告発を受けて、防衛省は全隊員を対象にハラスメントを調査する特別防衛監察を実施したが、その後も被害は相次いでいる。なぜ自衛隊でハラスメントがなくならないのか。

 

■五ノ井さんの告発以降も続くハラスメント被害

「二度とハラスメントがないようにしてほしい」

 

そう訴え、2022年に自らが受けた陸上自衛隊でのセクハラ被害を実名で告発した五ノ井里奈さん。当時の浜田防衛大臣は「対策になお一層しっかり取り組む」として、ハラスメントの根絶に向けた措置に関する大臣指示を出し、対策のための有識者会議を設置したほか、防衛省・自衛隊のすべての隊員を対象に実態調査のため特別防衛監察を20229月から実施した。

 

ところが、監察開始後の2211月には、護衛艦いなづま内で、先輩隊員が後輩隊員の脛(すね)を蹴るなどの暴行を伴う指導を行ったり、海上自衛隊の呉地区の部隊では防衛監察開始前から継続して男性隊員が同僚の女性に抱きつくなどのセクハラ行為を行い、さらに女性が拒否しているにもかかわらず幹部が女性を加害隊員に面会させるという事案が起きた。海上自衛隊だけでも監察開始後に発生、または継続したハラスメント行為で、すでに17人が懲戒処分を受けている(231222日現在)。

 

「防衛力の中核は隊員」と位置づける自衛隊。ハラスメント問題は、国防力の脆弱性(ぜいじゃくせい)を招きかねず、2023年度の防衛白書は、ハラスメントの章を新設して「自衛隊員相互の信頼関係を失墜させ、組織の根幹を揺るがす、決してあってはならないもの」と書き込んでいる。

 

自衛隊でハラスメントが続くのはなぜなのか。

 

■有識者会議の提言では…

 

20238月に提出された有識者会議の提言では、組織の特性として「厳しい教育訓練や、長期的な集団生活」に置かれるため、職務の適正な指導とパワハラの区別にズレが生じる場面が起こり得ると指摘された。

 

また、部隊における隊員の一体的な関係はよく「家族」に例えられると説明され、「家族だから許される」という認識を生じさせかねないとも指摘された。さらに、指揮官らの自覚が不足していて、起きたハラスメントへの責任を明確化してこなかったことや、対策について外部から評価や助言を求めてこなかったことなども挙げられた。

 

その上で、各機関のトップが定期的にメッセージを出すことや指揮官にはハラスメントに関する職責について具体的・実戦的な教育がなされるべきなどとされた。

 

■防衛大学校での人権教育の徹底が必要?

 

自衛官のハラスメント問題に取り組む弁護士グループ「自衛官のための人権弁護団」代表の佐藤博文弁護士は、自衛隊内のハラスメントについて、「集団的なところや組織的な隠蔽が見られる点が民間企業などと一線を画する。一般の社会とは違う常識が働いている」と分析する。

 

ハラスメントが続いていることについては、「五ノ井さんの事件を知って、ああいうことをしてはいけないとは理解していると思う。ただ、なぜダメなのか、人間の尊厳という根本を理解できていない隊員がいるのではないか」。その上で、卒業して所定の課程を経れば全員が幹部となり、高級幹部に当たる将官クラスのほとんどを輩出してきた防衛大学校の教育にハラスメントが絶えない要因のひとつがあるのではないかという。

 

「(前身の警察予備隊含め)自衛隊創設時、旧日本軍の正規将校が復帰し、幹部として活躍した。幹部養成のために設立された防衛大学校にも、上意下達のためには人の尊厳を軽んじるところや男尊女卑的な考えなど、旧日本軍の体質が受け継がれている」。それを踏まえ、防衛大学校での人権教育を徹底し、人の尊厳、相手を尊重することを教えることが、幹部自衛官の意識を変えることにつながり、自衛隊全体のハラスメント問題解決の糸口になるのではないかという。

 

■隊員の受け止め…「指揮」と「統御」が解決のヒント?

 

ハラスメントがあとを絶たない理由について、現役自衛官はどう受け止めているのか。

 

海上自衛隊のある幹部は、相談のしにくさが背景にあると指摘する。各部隊に相談員の隊員が置かれているが、いまなお相談に抵抗を感じる隊員が少なくないという。「外部の専門家の相談員を部隊において、相談できるようにすべき。ハラスメントをしてしまう幹部も相談できるかもしれない。自分だってハラスメントしてもされても部内には相談できない。相談と解決の繰り返しが上手く循環することで、ハラスメントも減っていくと思う」

 

また、幹部学校で指導経験のある航空自衛隊の幹部は、特にパワハラについて、幹部候補生などに教える「指揮」と「統御(とうぎょ)」の概念に背景があるのではないかと指摘する。

 

これは、部隊をいかに率いるかについて学ぶ過程で教わる概念で、「指揮」とは、絶対的な命令をもって部隊を動かすこと、「統御」(海上自衛隊などでは「統率」)とは、部下が積極的に指揮官の「指揮」に服そうとするような心理状態に置くことという。

 

極論すれば、「上官の命令を聞け!」と強制して命じるのが「指揮」で、「上官のためなら命をも差し出せる」ような指揮官への全幅の信頼がある状態が「統御」となる。このふたつをバランスよく併せもつのがよい指揮官だと教わるのだという。

 

一方で、これまでは、命令を強制する「指揮」のみに頼っていても部隊を統率できれば指揮官として優れていると評価される面もあったという。

 

「特に部下の能力をかえりみずに、部下の能力以上の『正しい命令』を命じる上官は、結果的に部隊を強くするとして評価されることもあった」(同空自幹部)

 

しかし、特に、ハラスメントという認識の広まりによって、このような「指揮」は「ハラスメント」として炙りだされてしまうようになったという。「おそらく『ハラスメント』の数自体はかなり減っている。しかし、ハラスメントと認識されていることは増えている」(同空自幹部)

 

そして、ハラスメントを行った本人は、「指揮」を「適切な指導」だと思いこんでいるから、ハラスメント行為を辞めることができないのではないかと考察する。

 

「『間違った命令』を間違いだと理解させることはできても、『正しい命令』をやめさせることは難しい。『指揮』と『統御』のバランスがいまこそ求められている」(同空自幹部)

 

1月はハラスメント防止月間

 

木原防衛大臣は20241月を「ハラスメント防止月間」と位置付けた。

 

海上自衛隊では、「懲戒処分の概要を部隊に周知することや隊員個人への指導などの継続」、航空自衛隊では「部外講師による監督者などへの講習など、これまで行ってきた対策の強化」を行うなど、陸海空それぞれが対策を講じるとしている。防衛省・自衛隊の模索は続いている。

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