2023年1月22日日曜日

▼「パワハラを防止していかないと…」漁師減少に歯止めへ、求人組織が取り組み

「パワハラを防止していかないと…」漁師減少に歯止めへ、求人組織が取り組み

 

2023年1月22日(日) 13:30 時事通信

 

 漁師の減少に歯止めを掛けようと、漁業者の求人サイト「漁師.jp」の運営や漁師の育成活動などを行う「全国漁業就業者確保育成センター」は昨年春から、パワーハラスメント対策を求人の条件に盛り込んでいる。少しずつ認知され始め、新人漁師の定着に期待が高まっている。(時事通信水産部長 川本大吾)

 

  漁業はきつい、汚い、危険の「3K職場」のイメージから敬遠され、担い手不足に悩まされている。農林水産省によると、1年間に漁業の海上作業に30日以上従事した漁業就業者は、1970年代前半まで全国に約50万人いたが、その後は急激に減少している。

 

  世界的な漁場縮小や水産資源の悪化に加え、近年は魚食の縮小もあって収入の確保が厳しく、2021年の就業者は約12万9000人と、ピーク時の4分の1ほどに減った。高齢化も顕著で、65歳以上の割合は4割近くに及ぶ。

 

  水産庁によると、近年、水産高校などから漁師になる新規就業者は年間約1700~2000人。数年で辞めてしまう人が多く、漁業関係者によると「5年ほどで半分くらいがリタイアしている」とみられている。その要因として「受け入れ側のパワハラが関係していることが少なくない」(同)といった指摘もある。

 

  全国漁業就業者確保育成センターによると、漁師の求人情報についてはこれまで、特に条件は設定されておらず、「漁業会社や漁業を営む個人経営者から、作業内容や給与面などの条件を聞き、さらに会社のPRなどプラス面を全面に公開していた」という。

 

 ◆ハラスメント対策を募集の条件に

 昨年4月、同センターは漁業会社などから求人情報を募る際、「ハラスメント対策を怠らない」「新人漁師を組織全体で育成する」といった条件を初めて追加した。これらの条件を満たす漁業者を同センターの「サポーター」と位置付け、求人情報を水産高校などに配布する冊子や同センターの公式サイトに掲載して漁師を募集している。

 

  また、サポーターの求人情報や同センターのイベント情報などを拡散してもらうため、自治体や企業、団体などの「PRパートナー」も募集。インターネット交流サイト(SNS)での投稿やイベントポスターの掲示を求めている。

 

  漁師になる若者の多くは海の仕事に憧れ、夢を実現しようと仕事に就くケースが多い。同センターの馬上敦子事務局長は「指導に当たる漁業者からの嫌がらせなどパワハラと思われる事案は多く、新たな対応が必要だと感じた。自然相手の漁師の職場は、働き方改革を採り入れにくいが、他の産業と人材を取り合っていく以上、自分たちの努力でパワハラを防止していかなければならない」と語気を強める。

 

  パワハラ対策を求人の条件にしたことについて、漁業者団体からは「根本的な解決には至らないのではないか」といった声も聞かれる。これについて馬上事務局長は、「今まで触れてこなかったパワハラ対策の第一歩だと思っている。今後は新人漁師へのヒアリングや、サポーター同士の意見交換の場を設けるなど、できる取り組みから進めていくことで、若者が夢に描いた漁師を長く続けられるようにしていきたい」と話している。

 

  卒業生の多くが漁業に携わっている静岡県立焼津水産高校の籾山誉人教諭は、「暴力など直接的なハラスメントを受けたという例は聞かれないが、無視されたり何も教えてくれなかったりすることで、先輩の漁師との間に高い壁を感じて辞めていく新人漁師がいる。(同センターの)対策をきっかけに、離職者が少しでも減ることを願っている」と期待を込めている。

 

 ◆福岡、東京「漁業就業支援フェア」

  同センターは幅広く漁師を募集するため、福岡市で2月25日、サポーターとして登録された漁業会社などと漁師志望者とのマッチングの場を設ける「漁業就業支援フェア」を開催する。7月17日の「海の日」には、東京でも同様のイベントを行う予定。

 

  7月第3月曜日の「海の日」は、昨年から「漁師の日」として日本記念日協会から認定を受けている。申請した同センターは、パラハラ防止への対策とともに、「海の日=漁師の日として広く社会に普及させ、多くの国民が漁師という職業を敬い、職業選択の一つとして漁師が加わることで、チャレンジする若者が増えることを期待したい」としている。

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