精神障害の主な原因は「上司からのパワハラ」 厚労省が公表した労災認定データ
2025年7月18日(金) 8:17 北陸放送
働きすぎによる健康被害が後を絶ちません。厚生労働省は、2024年度の「過労死等」に関する労災補償状況を取りまとめ、公表しました。
「過労死等」とは、過重な業務による脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスを原因とする精神障害、あるいはそれらによる死亡を指します。
今回の集計では、過労死等に関する労災請求件数が4,810件に上り、前年度に比べて212件増加しました。さらに、労災保険給付の支給決定件数は1,304件と、前年度から196件増加しています。このうち、死亡・自殺(未遂を含む)の件数は159件で、前年度比21件の増加となりました。
今回の結果から、現代社会における労働環境の厳しさ、そして働く人々にのしかかる重圧が依然として深刻であることがうかがえます。
■月80時間以上の残業が分岐点。脳・心臓疾患の労災、最多は50代・トラックドライバーなどの運輸業
業務による過重な負荷が原因とされる脳・心臓疾患に関する労災補償状況を見ると、2024年度の請求件数は1,030件で、前年度から7件増加しました。このうち、支給決定件数は241件で、前年度比25件の増加となっています。また、支給決定件数における死亡件数が67件に上り、前年度から9件増加しました。
業種別の傾向では、特に「運輸業、郵便業」での請求件数が213件、支給決定件数が88件と、いずれも最多となっています。これは、長距離・長時間労働が常態化しやすい「道路貨物運送業」が、請求件数155件、支給決定件数76件で最多であったことからも裏付けられます。 職種別では「輸送・機械運転従事者」が請求件数177件、支給決定件数75件で最多となり、業務の特性がリスクに直結している現状が浮き彫りになっています。
年齢層では、「50〜59歳」の請求件数が411件、支給決定件数が129件で最も多く、次いで「60歳以上」、「40〜49歳」が続きます。中高年層が脳・心臓疾患のリスクにさらされやすい状況が示されています。
また、時間外労働時間別に見ると、支給決定件数では、1か月評価期間で「100時間以上〜120時間未満」が18件と最も多く、2〜6か月平均評価期間では「80時間以上〜100時間未満」が63件で最も多くなっています。これは、いわゆる「過労死ライン」を超える時間外労働が、脳・心臓疾患の発症に深く関与していることを示唆しています。
■【40代が最多】心の病、最大の引き金は「上司からのパワハラ」。業種別では医療・福祉で顕著
仕事による強いストレスが原因で発病する精神障害に関する労災補償状況では、2024年度の支給決定件数が1,055件と、前年度から172件増加し、初めて1,000件を超えました。未遂を含む自殺の支給決定件数も88件で、前年度比9件の増加となりました。
業種別では、「医療、福祉」が請求件数983件、支給決定件数270件と圧倒的に多く、中でも「社会保険・社会福祉・介護事業」が請求件数589件、支給決定件数152件で最多となっています。人手不足や重い責任が背景にあると推測されます。次いで「製造業」「卸売業、小売業」が上位を占めています。
職種別では「専門的・技術的職業従事者」が請求件数1,030件、支給決定件数300件で最も多く、次いで「事務従事者」「サービス職業従事者」が続いています。
年齢別では「40〜49歳」が請求件数1,041件、支給決定件数283件で最多となり、働き盛りの世代が精神的な負荷を抱えている現状が見て取れます。
精神障害の発病に関与した出来事(心理的負荷の強度を評価する事象)を見ると、支給決定件数において以下の項目が上位を占めています。
・「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」:224件
・「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」:119件
・「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」:108件
特にパワーハラスメントが、精神障害の原因として突出して多いことが判明しました。これは、職場内の人間関係やハラスメント対策が喫緊の課題であることを示しています。
■「副業」や「裁量労働」にも潜むリスク。見えにくい“合わせ技”の過重労働とは
現代の多様な働き方が広がる中で、これまでとは異なる形で見過ごされがちな新たな過重労働のリスクが浮上しています。それが、複数の職場で働く「副業・兼業」や、労働時間管理が個人に委ねられる「裁量労働制」における過労の問題です。
■「副業・兼業」が引き起こす見えない過労
近年、働き方改革や個人のキャリア形成の多様化により、副業や兼業といった複数の職場で働くスタイルを選ぶ人が増えています。しかし、それぞれの職場の労働時間やストレスが単独では過重でなくとも、合算されることで労働者の心身に大きな負荷がかかるリスクが顕在化しています。これを評価するために設けられたのが「複数業務要因災害」という概念です。
「複数業務要因災害」とは、事業主が同一ではない二つ以上の事業に同時に雇用されている労働者について、全ての就業先での業務上の負荷を総合的に評価することにより、傷病等との因果関係が認められる災害を指します。つまり、一社での労働時間が短くても、他の職場の労働時間と合わせると、いわゆる「過労死ライン」を超えるような過重労働になっているケースも含まれています。
「複数業務要因災害」については、脳・心臓疾患の支給決定件数が6件(前年度比1件増)、うち死亡が3件(前年度比2件増)でした。精神障害の支給決定件数は2件(前年度比2件減)、うち死亡が1件(前年度比1件増)でした。 企業側だけでなく、労働者自身も、自身の総労働時間やストレス負荷を客観的に把握し、適切な自己管理を行うことの重要性が改めて問われています。
■「裁量労働制」の陰に潜む過重な責任と負荷
一方、労働時間配分を労働者の裁量に委ねることで、効率的な働き方を促すとされる「裁量労働制」においても、過労死等のリスクが確認されています。この制度は、専門性の高い業務(専門業務型)や企画立案などの業務(企画業務型)において適用されますが、その「裁量」が時に過度な自己管理と責任を伴い、結果的に長時間労働に繋がりやすい側面も指摘されています。
「裁量労働制対象者」に関する労災補償状況では、脳・心臓疾患で4件、精神障害で4件の支給決定が確認されています。
企業は、裁量労働制を適用する労働者に対しても、単に制度を導入するだけでなく、実態として業務量が過大になっていないか、過重なストレスがかかっていないかなどを定期的に確認し、適切な健康管理や業務量の調整、ストレスチェックの実施など、心身の健康を守るための具体的な配慮を怠ってはなりません。
■誰かの悲劇で終わらせない。過労のない社会を実現するために
今回の厚生労働省の公表データは、現代の労働環境において、過労やストレスに起因する健康問題が深刻化の一途をたどっていることを明確に示しています。特に、運輸業における長時間労働や、医療・福祉現場での精神的負荷、そして職場でのハラスメントといった問題が、多くの労働者の心身に大きな影響を与えている実態が浮き彫りになりました。
企業には、労働時間管理の徹底、ハラスメント対策の強化、そして従業員のメンタルヘルスケアへの一層の取り組みが求められます。また、私たち一人ひとりも、自身の健康を守る意識を持つとともに、職場で異変を感じた際には、迷わず相談機関や専門家に助けを求めることが必要です。誰かの悲劇で終わらせない。私たち一人ひとりが当事者意識を持ち、社会全体でこの問題に向き合っていく必要があります。
《カウンセラー松川のコメント》
ハラスメントの根絶は難しいです。
しかし、ハラスメントの発生対応は可能です。
それが出来ているだけでも、
「ハラスメント被害に遭った」との回答を軽減可能です。
要はトップがそして組織がハラスメントに対して向き合っているかどうか
それがハラスメントで問題として扱われるかに至ります。