企画案が却下され、体調を崩した28歳女性 仕事のやる気をなくさせる上司とは?
2025年2月12日(水) 11:40 読売新聞
産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」
仕事をしていれば、ストレスはつきもの。精神科産業医として45年以上のキャリアを持つ夏目誠さんが、これまで経験してきたケースを基に、ストレスへの気づきとさまざまな対処法を紹介します。
私は大手企業を中心に精神科産業医を務めて45年以上になりますが、近年は若手社員が会社をすぐに辞めることが問題になっていて、相談に訪れた社員が退職する経験もしばしばです。相談事例から浮かび上がってくるのは、上司の側に若手を育てようという意識が足りないのではないかという問題です。一度は企画が却下されて、へこんだものの上司が代わって意欲を回復した若手女性社員の例を紹介します。
頑張ってセールス企画案を仕上げたが
会社で行われたストレスチェック後の「高ストレス者」面談に訪れたのは、メーカー営業部の総合職、28歳の小坂明代さん(仮名)です。
産業医 : 落ちこむ、イライラするなどの心身の愁訴が多く、上司サポートが低い結果となっています。うまくいっていないのでしょうか?
小坂さん: 上司が理解してくれない気がしています。
産業医 : 例えば?
小坂さん: 課長から指示された販売セールスの企画案です。やりたい仕事なのでうれしくって。でも締め切りが迫っていて、かなり無理をして仕上げたんです。
産業医 : どんな案?
小坂さん: 「このアイテムで華やぐ、あなたに」がキャッチコピー。若い女性向けの提案です。同僚の女性に協力してもらいました。課長が「これからは若い感性が大事。どんどん案を膨らませてほしい」と期待してくれたので、やる気が出たのです。
産業医 : なるほど。
却下の理由はあいまい、体調悪化
小坂さん: でも、2週間後に完成案を提出したら、「うーん、もう一つだな」と言われて却下されました。
産業医: ショックだったね。
小坂さん: 理由を尋ねても、「社内にもいろいろな考え方があって」「ヒットにつながるかな……」と歯切れが悪くて、よくわかりません。
産業医 : 残念でしたね。
小坂さん: 可能性があると思って頑張っただけにショックで……。無理をしたこともあって、家庭でもうまくいかないことが続いて体調を崩してしまったのです。つらかった。
産業医 : そうですね。
小坂さん: 体が動かなくなってしまったので、10日以上有休を連続して取りました。
産業医 : それで。
小坂さん: 休職は嫌だったので、2週間後に復帰しました。課長の態度は相変わらず冷たくて。
産業医 : 気持ちが晴れないよね。
小坂さん: 毎日、ウツウツした気分のまま働いています。
産業医 : よく話してくれたね。
小坂さん: ありがとうございます……。
1年後に女性課長が着任
小坂さんはその後も定期的に相談室を訪れていました。1年後に課長が代わって、相談に訪れる小坂さんの様子に変化が現れました。
小坂さん: 新しい課長は女性で明るく、話しやすい雰囲気なので、職場の雰囲気が変わってきたんです。「女性課長なら理解してくれるかもしれない」と期待して、一度却下された企画案についても話を聞いてもらいました。
産業医 : 話したんだね。
小坂さん: はい。課長は「頑張りすぎて前みたいにならないように。無理はしないでね」と優しく声をかけてくれて、私たちの企画案について丁寧に聞いてくれたのです。
企画案にしっかり向き合ってくれた
産業医 : 良かったね。
小坂さん: ええ。問いかけながら聞いてくれました。
産業医 : うれしいね。
小坂さん: 課長は「いい案です。若い女性の感性が生かされているよ。今、求められているものだと思う。検討させてね」って言ってくれたのです。
産業医 : 前向きですね。
小坂さん: (笑顔で)1週間後、課長は「いい企画書です。この案で行きたいわね」って言ってくれました。
産業医 : そうかそうか。
小坂さん: 本当にうれしかった。ブルーな部分がスーッと消えましたよ。
産業医 : もう相談の必要はなさそうだね。
小坂さん: ありがとうございます。
半年後、小坂さんは相談室を訪れました。「新しい課長になったことで、私たち一人ひとりの気持ちに変化をもたらして、職場の空気が変わりました」と明るい表情です。「管理職がチームの力を引き出してくれるんですね」と語ってくれました。
2人の課長のコミュニケーション能力の差
事例を検討しますと前任の課長は、若い感性を重視すると期待をいだかせたものの、企画案を却下する際の態度や説明があいまいで、部下に心理的負担を与えました。これにより、彼女は仕事への自信を失い、体調を崩す結果となったのです。
新たに着任した女性課長は、提案に耳を傾け、問いかけなどを通して具体的なフィードバックを行いました。これにより、職場の空気や彼女たちのモチベーションに変化が生まれ、社内での課長の頑張りもあって企画案が取り上げられることにつながったのでしょう。
小坂さんが経験した2人の課長は考え方やコミュニケーション能力に差があったわけです。
女性管理職の登用が日本経済にプラスかも
ストレスの高い若手の相談を受けていると、前任の課長のように若手を育てようという意欲が上司の側に欠けている例によく出会います。上司が部下の意見に
真摯しんし に耳を傾け、適切なフィードバックを行う。それができていないのです。
一方、小坂さんの例もそうですが、女性社員に対して、若手を育てようという意欲を持って接する女性管理職の話をしばしば耳にします。男性中心の企業社会で生きる女性同士、わかり合いやすく、後進を育てることに積極的な傾向があるように思えます。
しかし、圧倒的に女性管理職が少ないのが現実。厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によれば、女性管理職の割合はわずか12.7%。今後、女性管理職がもっと積極的に登用されることで、様々な場面で日本経済の成長にプラスの影響が出てくるのかもしれません。
《カウンセラー松川のコメント》
夏目医師は精神科産業医として45年以上の経験があるので、
対応や見立てについても信頼して良いと思います。
ところが、最初の上司が嫌がらせをする訳でなく、
頑張った仕事に対して満足な対応をしてくれないから
それがストレスとなって有給休暇を使って10日間休んだとのこと。
仕事で頑張ったのは評価されたいですが、
勤め人としては当たり前の事をしているだけ。
どんなに頑張っても、それが採用されるかは目の前の上司だけでなく
他の関係者の評価も影響します。
結局、異動により新しい課長により、自分の仕事を認めて貰えた。
それは課長が男性か女性かでなく、仕事の取り組み姿勢や感性の違いであり、
「女性(同性)課長だから認めてくれた」と思うのは短絡的です。
そして、自分の仕事が認められたから、気分が良くなるのは当然でしょう。
誰だって真剣に取り組めば取り組むほど、自分の仕事を認めて欲しいでしょう。
しかし、仕事とはそんなに甘いものではありません。
頑張りを評価しくれる保証もありません。
厳しい言い方ですが、
「自分の仕事が認められず、上司の態度が悪い」
そんな事で凹むのは当然でも、仕事を休む様では、
これからの社会人として続けられるのか心配です。
この展開だけなら、仕事仲間や友人と一席設けて愚痴を言う程度と同じ。
その様な自助努力もしないで「上司が悪い」で産業医の世話になるのも
いかがなものかと感じました。
産業医を甘える対象にしてしまう情けない事例ではないてじょうか。
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