2022年8月31日水曜日

「自分が正しいと思うな」なじられ続け…限界に 企業の「成果主義」トラブル多発

「自分が正しいと思うな」なじられ続け…限界に
 企業の「成果主義」トラブル多発

 

2022年8月31日() 9:56 西日本新聞(編集委員:河野賢治)

 

給料大幅減「頑張ってきたのに」

 働く人が会社から一方的に仕事の目標を決められ、達成しないと給与を引き下げられるトラブルが多発している。企業の人事評価制度が年齢や能力重視から、業績にウエートを置いた「成果主義」に変容しつつあることに加え、上司と部下の対話不足も背景にあるようだ。「従業員を軽視する人事評価制度では人材が育たず、企業の存続を危うくする」。識者は指摘し、警鐘を鳴らす。

 

 「その考えでは、うちの会社では幸せになれない」「もう辞めた方がいい」

 

 ソフトウエア開発会社に勤める福岡市内の女性(42)は、7年前の入社時から社長のパワハラまがいの言動に苦しんできた。意見を言うと全否定され、気分が落ち込んだ。

 

 精神的に限界に達したのは昨年7月。「自分が正しいと思うな」となじられ続け、たまらず病院に駆け込んだ。診断は適応障害。直属の上司は「今後は社長と接する機会をなくすように配慮する」と約束した。

 

 会社は社員一人一人が目標を設定し、その達成度に応じて賃金が支払われる「目標管理制度」を導入している。同年11月、目標を決めるために面談した上司は「あなたの役職は『全社目線』の目標が必要です」と告げた。

 

 「全社目線って何ですか?」。女性は意味が分からず、尋ねた。上司は「例えば全社的な提案をすること」と言うだけで、具体的に何をすべきか示さない。ただ、社長と関わる機会が増えることが予想され、怖くなった。

 

 目標を全社目線に改めるか、降格されるか。女性の選択肢はこれしかなくなった。降格となれば、基本給が4万円下がって入社当時の額に戻る。「どっちも選べないし納得できない。今までソフトの改良で頑張ってきたのに」。今も交渉を続ける。

 

無理なノルマ「辞めさせようとしているだけ」

 大手の医療・美容機器販売会社に勤める福岡県内の男性(53)は、予算のノルマの押し付けに苦しむ。

 

 美容の部署で1台数百万円の機器を九州内のクリニックに販売する。年間ノルマは約15千万円。1年に10台以上を売る計算だ。

 

 男性が2019年に今の部署に配属される前、九州の販売実績は10年間で20台ほどだった。九州は本州より営業先が少なく、コロナ禍で対面のやりとりも難しい。「無理なノルマです」。説明しても聞き入れられなかった。

 

 さらに昨年末からは、主力商品が半導体不足で納入されなくなった。上司に相談すると、係長から主任に降格してノルマを減らすよう提案された。今年7月に降格を受け入れ、基本給が8万円減に。給与はほぼ同額の手当が付くものの、賞与や退職金は減る。

 

 だが、ノルマは結局、降格前の水準が維持された。「今まで給料が高かったから。社員教育もしていない」のが会社側の言い分だ。教育しようにも、九州で美容の部署は自分しかいないのに。「中高年社員は給料が高い割に数字が上がらないと思われている。辞めさせようとしているだけだ」。男性がハラスメントの社内相談窓口に訴えたところ、会社はようやくノルマ見直しの検討を始めたという。

 

識者「人材育成重視の制度に」

 1人でも加入できる労働組合「連合福岡ユニオン」(福岡市)によると、成果主義の人事評価に悩む労働者は少なくない。一方的に業績目標を決められて四半期ごとの評価で賃金を数カ月で改定され、収入が大きく減った事例もある。

 

 寺山早苗書記長は「目標を会社が勝手に決めるのは人事評価制度の形として問題だ。労働組合のない会社が増え、悪質な成果主義が広がっている」とみる。

 

 成果主義が浸透し始めたのはバブル崩壊後だ。「業績重視」の名の下で、実際は人件費削減を目的としたケースが多い。ただ、会社が目標を押し付けて待遇を引き下げても、行政が人事評価制度を強制的に改める法律上のルールはない。解決を目指す公的な枠組みは、労働局の紛争調整委員会で当事者が第三者を交えて歩み寄りを図る「あっせん制度」などに限られる。

 

 学習院大の守島基博教授(人材マネジメント論)は「日本の企業にはまだ『従業員の評価は使用者の専権事項なので自由にできる』という感覚がある。そうではなく、目標設定や評価の機会に社員と対話して意欲を引き出し、成長する方法を一緒に考えることが大事。人事評価を社員の育成に結び付ける形にしないと企業は衰退しかねない」と指摘した。

 

成果主義

 従業員の賃金や配置を業績で決める人事評価制度。1990年代のバブル崩壊で企業の業績が悪化したのを機に、年齢や勤続年数に応じて賃金が上がる「年功主義」や、個人の職務遂行能力で賃金を決める「職能資格制度」に代わって導入が進んだ。成果主義が広まる中で各社が取り入れた「目標管理制度」は、従業員が上司と相談して目標を決め、達成度に応じて処遇が決まる仕組み。


《カウンセラー松川のコメント》

成果主義も適材適所の運用が大切です。
業績が数値として表れる部署もあれば、
管理部門の様に数値はせいぜいコスト程度の部署まで様々です。
私も総務等の管理部門が長く、その部署で業績の数値に悩まされました。
結局はコスト削減程度しかなく、その削減コストも社員全体に関わる事なので、
自身の努力も犠牲も不要なものでした。
しかし、役付となると上位になるほど広い目を持たなければならず、
その点では「全社目線の必要」は理解出来ます。
業務指針に対して「具体例を示せ」とは今の人らしい姿勢です。
どの様な勤務姿勢や発想が[全社目線]なのか、
自ら考えられない様な社員は単なる駒に過ぎませんから
役職なんて不要です。
営業と現業や製作が別部署ならば、
自分の仕事や部署だけが良い数字を上げるのではなく、
それぞれの部署にとっても良い結果を出せるか、
または会社として良い結果を出せる仕事が[全社目線]ではないでしょうか?
さて、無理なノルマを課す件についてですが、
ニュースのとおりですと会社の売り上げしか見ていない
情けない本社担当部署や経営陣だと感じました。
確かに売り上げや利益は多いに越した事はありませんが、
何事にも限界はあります。
その限界を見極めないで数値を押し付けるのは、明らかにパワハラです。
経営者や管理部門は[成果主義]と言う美辞麗句に踊らされるばかりでなく、
きちんと腰の据わった方針を出すのが仕事ではないでしょうか?

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