2022年4月28日木曜日

川重社員、中国で自殺 出向中に過重業務で 遺族が賠償請求へ「会社のケアなく、追い込まれた」

川重社員、中国で自殺 出向中に過重業務で
 遺族が賠償請求へ「会社のケアなく、追い込まれた」

 

2022年4月28日() 6:30 神戸新聞(小谷千穂)

 

 川崎重工業(神戸市中央区)から中国の関連会社に出向していた男性社員=当時(35)=が自殺したのは、川重側が海外でのストレスや過重な業務を放置して安全配慮義務を怠ったためとして、神戸市内に住む男性の妻と2人の娘が、同社に約1億円の損害賠償を求める訴訟を近く神戸地裁に起こすことが分かった。妻は「状況を把握していた会社から何のケアもなく、正常な判断ができない状態に追い込まれた」として、出向元としての責任を追及する。

 

 遺族らによると、男性は2013年4月、川重に在籍したまま中国の現地企業との合弁会社に出向し、現地に単身赴任した。海外勤務は初めてで、中国には行ったことがなく、中国語もほとんど話せなかったという。

 

 現地の部下とのコミュニケーションに苦心する一方、担当業務や担当外のトラブル対応など仕事は急増し、6月にうつ病の症状が見られた後、7月に単身赴任先のマンションから飛び降りて死亡した。

 

 神戸東労働基準監督署は16年3月、男性の自殺を労災として認定した。男性が所属したセメント機器設計部門に他に日本人がおらず、現地の通訳者を介しての業務となったため「職場内の意思疎通が不十分だった」と指摘した上で、過剰な業務を任されて対応しきれずに心理的負荷が強まったと判断した。

 

 男性のパソコンには1カ月で400件以上、川重の上司とやりとりしたメールが残されていた。男性はトラブル対応を拒否していたが、上司からは逆に指示する文章が届いていた。遺族によると、男性と同時期に別の社員も出向する予定だったが、延期になっていたという。

 

 遺族側は、川重に対して「頻繁に連絡をとっていて指揮命令下にあり、注意義務があった」として「男性の異変を認識していたのに、人員派遣や担当業務の肩代わりなどの手を打たなかった」と配慮不足を指摘している。

 

 男性は出向中、家族と毎日ビデオ通話アプリをつなぎ、幼い娘たちの成長を目にするのを楽しみにしていたという。

 

 妻は「環境問題に携わる仕事がしたいと憧れや希望を持って夫は働いていた。どんなに無念だっただろう」と声を震わせ、「夫は海外で一人『ほったらかし』にされて、会社の犠牲になった。二度と起きないよう会社は非を認めてほしい」と訴える。

 

 川重は、神戸新聞の取材に対し、この事案について「当社からはお答えできない」とコメントしている。

 

■海外赴任社員、困難業務に支援少なく 専門家「企業の対策必要」

 

 海外赴任した日本人社員の命の危険を指摘する声は、年々高まっている。ソニー(東京)では2018年、40代男性社員が駐在先のアラブ首長国連邦(UAE)で突然死し、21年2月に労災認定を受けた。担当弁護士は「海外赴任中の過労死事案は相当数発生していると考えられる」と指摘していた。

 

 東北労災病院生活習慣病研究センターの宗像正徳センター長によると、日中共同研究の結果、中国の都市部で働く日本人は「難易度の高い仕事が多く求められる半面、上司や同僚からの支援は少なく、労働負荷が高い状態で長時間働いている」という状況が浮かび上がったという。

 

 海外赴任者は多数の現地労働者を管理する役割が求められ、少数で多くの業務をこなす必要性から、時間外労働も放置されがちと指摘する。睡眠時間の短縮につながり、糖代謝異常や動脈硬化などを引き起こす恐れもあるという。

 

 海外生活で頼る人がおらず、文化や言語、健康衛生、気候など日々の生活でも身体的、精神的負担が膨らむ。外務省の海外邦人援護統計では、20年の死亡数に占める自殺者の割合は約7・5%に上った。

 

 宗像センター長は、新型コロナウイルス禍でオンライン会議などが広がり「困ったときに容易に相談できる技術が進歩した点で、精神的支援に役立つのでは」と期待する一方、「本社の管理部門などは海外の状況に対する関心が薄れがち。少子高齢化で国内市場が縮小し、海外で働く人が増えており、対策を急ぐ必要がある」と訴える。


《カウンセラー松川のコメント》

業務の専門性が高くなったり、複雑さが増すと、
それだけ対応能力か必要になり、誰でも務まる訳ではなくなります。
それを従来の人事制度だけで運用しようとすると無理が発生し
今般の様な自殺とそれに伴う訴訟が発生するのも自明の理です。
企業内の職務内容については報道されても理解し難いですが、
社員の適性を考慮しない上に、
メンタルヘルスに対する姿勢が欠けていたのが原因とも言えます。
大企業なのですから、社員に投ずる費用もケチらないことです。

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