2021年8月23日月曜日

抱きつく、触る、はさみを振り回す…「ケアハラ」に悩む介護現場 サービス打ち切り・退去も

抱きつく、触る、はさみを振り回す
…「ケアハラ」に悩む介護現場 サービス打ち切り・退去も

 

2021年8月23日() 12:15 読売新聞(阿部明霞)

 

 介護の現場では、職員がサービス利用者や家族から暴言を浴びせられたり、暴力を受けたりする場合もあるという。こうした「介護ハラスメント」は、離職などを招いて人手不足を悪化させかねず、事業者が職員を守るための対策に乗り出している。

 

 

「赤・黄・青」の判断基準 サービス打ち切り対応も 相談窓口や定期アンケ

 

◆それ「赤」です

 職員が精神的苦痛を受けたり、業務に支障が出たりするほどの暴言・威嚇や、暴力行為、セクハラは「ハラスメント」で赤。問題行動はあるが、「やめてほしい」と伝えると理解してくれる場合や、過剰な要求は黄。これらに当たらない正当な指摘や要望は青――。

 

 老人ホームなどを運営する「メグラス」(名古屋市)は4月、利用者や家族の言動が職員へのハラスメントと言えるのかどうか判断するための基準を導入した。

 

 現場の職員約150人にアンケートして迷惑行為の事例を集め、厚生労働省の対策マニュアルなども参考にしながら赤、黄、青の3段階に分類した。具体的には、どなってものをたたきつけて威嚇したり、体を触ったり抱きついたりするのは、赤となる。

 

 職員からハラスメントの疑いがある出来事が報告されると、現場と直接関わりがない部署がこの基準に当てはめて1次判定。赤または黄とされた場合は対応チームを作り、職員や利用者らへの聞き取りを行う。

 

 最終的にハラスメントに当たると判断した場合は、利用者や家族と、サービス提供契約の打ち切りも視野に、対応策を話し合うなどする。黄や青の場合は、ケアの工夫や、提供できるサービスの丁寧な説明などで利用者側の不満の解消を図っている。

 

 仕組み作りに携わった脇田芳香さん(25)は「ハラスメントとそうでない言動の境界がわからないという声もあり、まず、基準を決める必要があった」と話す。

 

◆退職相次ぐ

 メグラスでは以前、運営するホームの一つで入居者がはさみを振り回した出来事があり、身の危険を感じた職員の退職が相次いだ。暴力に限らずハラスメント全般を放置せず、職員が安心して働ける環境が必要だとして、こうした制度を作ることになった。

 

 暴言や繰り返しの要望、説教、長時間の電話による拘束のほか、たたく・つねる・引っかくといった暴力も経験がある迷惑行為として現場から上がってきた。「腕に500円硬貨大のあざができるのは日常という声もあった」(脇田さん)

 

 これまでの約4か月間で2件が赤に該当。うち1件は、聞き取りの結果、複数の職員に抱きつく、体を触るなどセクハラ行為を繰り返していたことが判明し、利用者側と話し合い、退去してもらったという。

 

◆声を上げることで

 脇田さんは「高齢だから、病気だから『仕方ない』と我慢するという対応に職員が慣れてしまっている状況を改めたい」と訴える。

 

 早い段階で「やめてほしい」と声を上げることで、迷惑行為がエスカレートするのを防げる可能性もある。同社は制度を説明するステッカーを施設内に貼り出したり、新たに入居する利用者や家族に配ったりして理解を求めている。

 

 重度訪問介護を全国展開する「土屋」(岡山県)は今年、ハラスメント対策の委員会を作った。複数の相談窓口を用意するほか、定期的なアンケートで職員の困りごとをすくい上げる。

 

 同社取締役の岡田千秋さんは「特に入浴や排せつ介助ではセクハラとケアの線引きが難しい面もある」と指摘する。例えば、入浴介助での洗い方の要望。異性の職員を困らせるような「性的な言動」をされても、がまんして介助に当たるケースもあるという。

 

 岡田さんは「ハラスメントが続くことで、職員が退職してしまうこともある。より良いケアを継続するために、ケアを受ける側も職員への接し方を大事にしてほしい」と強調する。

 

「上下関係」との誤認も

 介護現場では、「やってもらって当然」という意識を利用者が持ちやすいことも、ハラスメントの背景としてある。指示する側・される側という「上下関係」との誤認が、過剰な要求につながりやすい面もある。利用者側が期待している内容と、職員が提供できる介護サービスにズレがあることで、不満が暴言などの形に発展するケースもある。

 

 日本介護支援専門員協会の中林弘明常任理事は「介護サービスは自立につながる支援が目的で、何でもするわけではないことを理解してほしい」とクギを刺す。

 

 ハラスメント対策として、厚生労働省はホームページで事例集や対策マニュアル、研修の手引などを公表している。ただ、昨年の調査では、過去1年に訪問介護などの現場で利用者らからハラスメントがあったと回答した事業所は全体の約3割。訪問看護では4割を超えた。ハラスメントの実態は様々で、一律の対応が難しい現状も浮かび上がった。

 

 ケアの担当者が次々と代わったり、契約を打ち切られたりすれば、利用者や家族の生活にも影響する。どんな行動がハラスメントに該当するのか、利用者側も理解を深める必要がある。


《カウンセラー松川のコメント》

こちらの記事
「Mメンタルサポート」 ブログ出張版: 介護ハラスメント、事例集を作成 柔軟なシフトや相談体制を (mms119.blogspot.com)
では国の事業として事例集の作成が行われていますが、
介護現場での利用者からの猥褻な行為や暴力行為は少なくない様です。
これらが原因の上に、職場として対応しなければ離職者が発生するのも当然です。
介護は人手不足が続いていますから、同業他社への転職も検討し易いと思います。
優秀な人材が流出すれば、それはサービス低下になります。
そして、不良な人材でも採用するしかないとなれば、
サービス低下どころか犯罪に至る可能性も否定出来ません。
現実に介護職員が利用者への暴力を振るう事件は報道もされています。
行政による指針が安心の決め手かも知れませんが、
現場を抱える事業者が実際に介護に携わる方と共に
ハラスメント対策を採るのが最も効果的だと思います。
それが優良な介護事業所への道ではないでしょうか?

0 件のコメント:

コメントを投稿