異動先で「高ストレス状態」の27歳男性「仕事になじめない」
…上司や周囲はどうサポートしたらいい?
2025年1月23日(木) 11:20 読売新聞
産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」
精神科産業医として45年以上のキャリアを持つ夏目誠さんが、これまで経験してきたケースを基に、ストレスへの気づきとさまざまな対処法を紹介します。
若手社員の転職が企業の人事部門の大きな課題になっています。精神科産業医として企業に関与していますが、そこで思うのは、入社3~5年目の初めての人事異動が重要だということ。その職場で社員として自立できるかどうかが鍵になると考えています。入社直後の配属職場では、「研修半分、仕事半分」として扱われることが多いからです。いわば、見習い期間です。そこで培ったものを生かし、異動後の配属先で社員として自立していくことになります。事例を紹介します。
初めての人事異動後、仕事になじめない
販売会社営業部勤務、27歳の西崎太郎さん(仮名)は会社で行われたストレスチェック検査で「高ストレス状態」にあると判定され、産業医面談に訪れました。「初めての人事異動で、仕事になじめない」「自分が浮いている感じがする」という気持ちを抱えているようです。
産業医 : 西崎さんのストレスチェック検査の結果を見ると、「イライラが強く、集中できない」などの訴えがあり、「職場サポートが低い」と感じているようです。何か仕事で悩みがありますか?
西崎さん: 入社5年目で、4月の異動で営業部勤務になりました。営業は初めての仕事で、うまくいかないんですよ。
産業医 : 最初に配属された部署は?
西崎さん: 総務部です。
産業医 : そうですか。
西崎さん: 初めは分からないことばかりなのは総務も同じですが、総務は仕事がある程度パターン化されていたから、こなすことができました。
総務から営業、仕事がガラリと変わり…
産業医 : 最初の配属先の仕事では、戦力として期待されていても、研修半分、仕事半分という面があります。実地研修のようなものですね。
西崎さん: そうだったかもしれませんね。営業に異動すると、ガラリと仕事内容が変わっただけではなく、半年を過ぎたら一人前として扱われるようになりました。
産業医 : なるほど。
西崎さん: 半年間は、企業を回る訪問営業で先輩と一緒に回りました。先輩のやり方を見ながら、要領を身に付けていくということでした。
産業医 : そうか。
一人の営業は難しい
西崎さん: 一緒に回っていた時は良かったんですが、一人になると、段取りから話の持っていき方まで何もかも自分で考えてやっていかなければいけません。当然のことですが、頼る人がいないと心細くて。
産業医 : 一人営業がうまくいかないのだね。
西崎さん: 僕が任されていた総務の仕事は、ある程度パターン化していたのですが、外部を相手にする営業の仕事は、出たとこ勝負なところもあって……。
産業医 : ふむふむ。
西崎さん: 新人で顔を覚えられていないこともあるのか、連絡しても先方が会ってくれないこともあります。
産業医 : 先方と会うために「お会いできるまで待ちます」と粘るとか、「数分でいいので」とかやり方を考えましたか。
西崎さん: う~ん。粘るんですか。
産業医 : 「挨拶だけでも」と言ってね。
西崎さん: そうですね。なんとかやってみます。また相談に乗ってください。
営業先に自己判断で金額提示
西崎さんは初回の面談から1か月後に報告に来てくれました。
西崎さん: 先生、「なんとか挨拶だけでも」と粘ったら、会ってもらえました。やり方なんですね。仕事のコツが少し分かってきた気がします。
産業医 : 良かったね。
西崎さん: でも、競合他社がこれだけサービスしてくるから、君の会社の誠意を見せてほしいと。値引きの依頼です。規定以上の値引きを迫られて困っています。
産業医 : 課長に相談すれば?
西崎さん: 課長も多忙のようで、聞くのが難しい。
産業医 : 先輩は?
西崎さん: 先輩も営業に出ているので顔を合わせる機会がないんですよ。
産業医 : それで。
西崎さん: わからないから、適当な額で返事をしました。
産業医 : う~ん。
仕事のミスで落ち込む
西崎さん: それはやっぱりまずくて、提案する価格については、ちゃんと上司と相談しなければいけませんでした。ミスでした。
産業医 : そうか。
西崎さん: 課長に怒られて、顔から火が出るほど恥ずかしいです。
産業医 : それで?
西崎さん: 訪問するのが怖くなってしまって。
産業医 : ミスに過剰反応しすぎですよ。「失敗をしながら仕事を覚える」という言葉もあるくらいで、初めは誰でもミスをするもの。あなたの先輩や上司も経験済みです。
失敗を次に生かす
西崎さん: そうか。ミスは誰でもするか。僕だけではありませんよね。課長もソフトに言ってくれました。
産業医 : そうだよ。大切なのは、ミスした後をどうフォローして、今後に生かすかということです。失敗に気づき、原因を知る。対応策を考えるのです。恥ずかしい思いをするが、その感情が仕事を身に付けさせるのです。
西崎さん: 仕事を身に付ける動機づけですか。営業に出るようになって、相手に振り回されてしまいました。まず、課内できっちり価格などの条件を詰めて、先方に持っていく。そういう基本をおろそかにしたのが失敗でした。
産業医 : いい教訓になりましたね。
西崎さん: ありがとうございます。
周囲がフォローする
事例は最初の人事異動先で、仕事の内容がガラリと変わって悩んだというものです。このような若手の相談をしばしば受けてきました。営業マンとしてつたないところがあったにしても、ミスをした時、過剰反応して「自分はダメだ」と落ち込んでしまうだけでは、学びにつながりません。上司や周囲は「失敗をしながら仕事を覚える」くらいの気持ちで、サポートするのが重要です。
若手が分からないことがあるのは当たり前。課内、部内でのコミュニケーションを活発にして、若手が質問しやすくする職場作りも大切だと思います。
《カウンセラー松川のコメント》
27歳の社員西崎さんと70歳超のベテラン産業医夏目さんのやりとりですが、
社会人として30年以上過ごしている私としては、
西崎さんが「総務での仕事が恒常化している」との認識段階で
総務の本質を理解していないと感じました。
確かに総務はマニュアルとおりの仕事も多いです。
ところが、総務も突発対応や複雑な事案も少なくないので、
自身の知見を活かしての対応シーンも相当あります。
西崎さん、総務での4年間では本格的な仕事に携われなかったのでしょうか。
そこに営業への異動があり、接客対応も含めての仕事に困惑し、
しかも、総務で鍛えられなかったからか、
マニュアルとおりの仕事の流れではない部分のストレスが多く、
過剰ストレスとなったのでしょう。
しかし、西崎さんは「報連相」や「創意工夫」もなく、
自身で問題を抱え込んでしまい、ミスに至ってしまってます。
こう言う社員さんって、今は増えているのでしょうか?
記事になるくらいなので、一定数は存在しているのでしょうね。
会社は学校ではありませんから、積極的な姿勢が無いと落ちこぼれにされますし、
落ちこぼれになっても救ってはくれません。
今般の事案では、良い産業医に巡り会えたからこそ、
解決の糸口が見つかりましたが、全ての勤労者がこの様にはなれません。
やはり、自己研鑽も必要です。
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