2025年1月17日金曜日

相馬地方広域消防内におけるパワーハラスメント行為に関する 最終答申書

相馬地方広域消防内におけるパワーハラスメント行為に関する
最終答申書

2025年1月17日(金) 相馬地方広域消防本部

標記の関する文書が相馬地方広域消防本部のホームページに掲載をされましたので、
拙ブログでは転載致します。
尚、文書のURLは以下のとおりです。
obj20250117133048599700.pdf

第1 はじめに
 1 これまでの答申書提出状況
 令和6年 2月19日 第一次答申書 提出
 令和6年 3月29日 第一次答申書追補 提出
 令和6年 5月28日 第二次答申書(中間答申) 提出 第二次答申書追補 提出
 令和6年 7月16日 第三次答申書 提出
 令和6年 9月 5日 第四次答申書 提出
 令和6年10月18日 第五次答申書 提出
 令和6年12月 3日 第六次答申書 提出

 2 第六次答申書作成後の当委員会の開催経過
 第42回 令和6年12月12日(木) 午前9時30分~午後5時
  相馬市役所(相馬市中村) 相馬地方広域消防本部及び南相馬消防署(南相馬市原町区)
 第43回 令和6年12月18日(水) 午前1時~午後4時
  ホテル福島グリーンパレス(福島市太田町)
 第44回 令和6年12月20日(金) 午前10時~午後7時30分
  福島県立医科大学(福島市光が丘)
 第45回 令和6年12月26日(木) 午前9時30分~午後6時
  福島県立医科大学(福島市光が丘)

 3 当委員会による関係者ヒアリング及び関係者からの情報提供等
 当委員会は、令和6年12月12日から令和6年12月18日にかけて、職員3名及び元職員1名に対する面談によるヒアリングを実施し、令和6年12月12日、相馬地方広域消防本部及び南相馬消防署の現地視察を実施した。
 その他、当委員会に対する電子メール等による情報提供が複数件あった。

 4 これまでの当委員会活動の総括
 当委員会は、本最終答申書提出に至るまで、1年以上、45回にわたり委員会を開催し、のべ92名の方(職員及び元職員)に対するヒアリング、3回の全職員アンケート、その他の調査等を実施した。
 職員、元職員の方々には、お忙しい中、ヒアリングやアンケートへの協力をいただいたことについて、あらためて御礼を申し上げる。
 当委員会としては、基本的には、「相馬地方広域消防職員のハラスメント防止及び排除に関する規程」が施行された平成29年11月以降の事案を調査の対象としたうえで、①被害職員において負傷の結果を生じた事案、②被害職員において財産上の損害(特に金員の支払)を生じた事案、③被害職員において精神疾患に罹患するに至った事案については、重大なパワーハラスメント事案として、平成29年10月以前の事案についても調査の対象としてきた(第一次答申書追補P2~3)。
 事実の認定にあたっては、当委員会が実施したヒアリング(以下「委員会ヒアリング」という。)の結果を中心としながら、電子メール等による情報提供の内容も加えて、被害職員とされる者の供述内容と第三者の供述内容が一致するか、また、加害職員とされる者の供述内容と第三者の供述内容が一 致するかに留意し、総合的に判断した(第一次答申書P7)。
 当委員会に対して、酒席におけるハラスメントの訴えも多く寄せられたが、酒席での行為は、加害職員、被害職員、目撃した職員において当時の知覚及び記憶が明確でない、あるいは誤りが入りやすい状況が想定されることに照らして、基本的には特定の者による具体的行為をパワーハラスメントとして 認定することは困難であった(第二次答申書(中間答申)P16及びP18参照。なお、この点に関して後記第2、2において詳述する)。
 また、パワーハラスメントについての情報提供がなされた場合であっても、情報提供者が匿名であるためにヒアリング対象者の選定が困難であったり、関係者のヒアリングを実施しても提供された情報に沿う供述が得られなかった等により、委員会として事実を確認することは困難な場合があった。
 当委員会は、これまでにパワーハラスメントと認定した以外にも、相馬地方広域消防内において多数のパワーハラスメントが行われていた実態があるものと推定する。
 当委員会でパワーハラスメントと認定するに至らなかった事案等については、被害職員あるいは目撃した職員が「相馬地方広域消防職員のハラスメン ト防止及び排除に関する規程」に基づくハラスメントの通報、相談をし、消防本部が同規程に基づき事実関係の確認を含む適切な対応をし、解決されるべきものである。

 5 本最終答申書の位置づけ
 本最終答申書は、相馬地方広域消防において、長期にわたり、広く、多数のパワーハラスメントが行われてきたことについて、当委員会がこれまでに調査をした内容に基づき、パワーハラスメント防止に向けた相馬地方広域消防としての取組に対する評価や、当委員会として考えるパワーハラスメント防止対策等をまとめたものである。
 なお、本最終答申書は、相馬地方広域消防におけるパワーハラスメント防止対策について述べることに重点があることから、本最終答申書全体が公開 されることを前提としており、別に【公開版】を作成することはしない。

 第2 本最終答申書の提出にあたり、特に指摘する事項
 1 全ての職員において、あらためてパワーハラスメントに対する正確な理解が必要であることについて
 1) パワーハラスメントの定義
 パワーハラスメントの防止対策をとりまとめ、実行するうえで、全ての職員が、どのような行為がパワーハラスメントにあたるのかについて、あらためて正確に理解しておく必要があることを指摘する。
 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示 第5号)」において、職場におけるパワーハラスメントは、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう」とされている。

 2) 職場での指導と「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」という要件
 職場での指導についても、それが上記の「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」ものである場合には、パワーハラスメントに該当する可能性があり、前記厚生労働省告示において、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、業務上明らかに必要性のない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動、当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動等が含まれるとされている。
 当委員会においてこれまで事実認定をしてきたパワーハラスメント事案は、いずれも、業務(指導を含む)上、全く必要性がないか、あるいは、指導のための口調、言葉遣い、行動として明らかに不適切なものである。
 特に、業務上の指導の必要性がいかに高い場合であっても、相手職員の人格や尊厳を侵害する言動が正当化されることはないことについて、 全ての職員が十分理解すべきである。

 3) 相手職員の受け止め方と「労働者の就業環境が害される」という要件
 前記告示において、「『労働者の就業環境が害される』とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。この判断にあたっては、『平均的な労働者の感じ方』、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当である。」とされている。
 当委員会がパワーハラスメントと認定した事実に関して、相手職員が、加害職員による当該言動によって不快を感じなかった等と供述するケースがあったが、そもそも、相手職員において真実不快を感じていないのか、加害職員に対する畏怖や配慮からそのように供述しているのか、という問題があるうえ、仮に、相手職員において当該言動によって真実不快を感じていなかったとしても、当該言動を目撃した職員において不快を感じ、その労働者の就業環境が現に害されることが生じ得る。
 よって、労働者の就業環境が害されたかどうかについては、単に相手職員の主観(にかかる供述)のみで判断するのではなく、同様の状況で当該言動を受けた場合または目撃した場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすべきであることについて、全ての職員が十分理解すべきである。

 2 酒席でのパワーハラスメントについて
 第二次答申書(中間答申)において述べたとおり、当委員会が実施したアンケート、パワーハラスメント事案に関するヒアリングへの協力及び情報提供依頼、当委員会による関係者のヒアリング等において、特に酒席におけるハラスメントを訴えるものが多く、また、同一のエピソードについて訴えが 繰り返しなされることもあった。
 一方で、例えば、第二次答申書(中間答申)において記載した「バーベキューの席上で裸にしたり、汚い貯水池のようなところに入らせる。この際、いつまで服着てるんだ、早く脱げと急かす、一発芸を強要する。」というエピソードについては、記名による情報提供がなされたところであり、委員会ヒアリングにおいて多数の職員からこのエピソードに関連する供述を得たが、バーベキューの席上で裸になった者、池に入った者がいたことは認められたものの、誰が、どのような発言で裸にさせ、あるいは池に入らせていたのかについて、複数の供述の一致が見られなかった。
 このエピソードは、酒席での行為であることに加えて、平成29年10月よりも相当以前の出来事であり、加害職員、被害職員、目撃した職員において当時の知覚及び記憶が明確でないと考えられた。
 その他にも、酒席でのエピソードについては、複数の供述の一致が見られないケースが多く見られた。
 以上の事情から、酒席での行為については、基本的には特定の者による具体的な行為をパワーハラスメントとして認定することは困難であり、例外的に、事実関係が明確であるものについてのみパワーハラスメントとして認定した。しかし、相馬地方広域消防において酒席への参加自体が強要される傾向にあり、飲酒をしない職員に対する配慮が欠落していること、後輩職員の身体を傷害し、財産権あるいは人格権を侵害する不法行為ともいうべき行為 が多数行われていたことが極めて強く推認されたことから、第二次答申書(中間答申)において、パワーハラスメントと認定するには至らなかったものの、情報提供において具体的に挙げられた内容を多数列挙したところである。
 上記列挙した内容をみれば、相馬地方広域消防における酒席の有り様は、社会一般の酒席の有り様と比較して明らかに異様であり、パワーハラスメントが発生しやすい状況であることを職員一人一人が認識し、自覚すべきである。
 酒席での行為については、加害職員については当然であるが、目撃していながら制止しなかった職員も含めて、一人一人の行動変容が必須と考えられることを指摘する。

 3 相馬地方広域消防本部における従前のハラスメント申出への対応状況につ いて
 当委員会は、第二次答申書(中間答申)において、相馬地方広域消防職員のハラスメント防止及び排除に関する規程が施行された平成29年11月1日以降、当委員会が設置されるまで、通報・相談窓口への申出の実績が1件もなかったと指摘した(第二次答申書(中間答申)P11、P32)。
 しかし、その後、当委員会による調査期間中に、消防本部内において、平成30年度以前に複数の「ハラスメント苦情等申出書」が提出されていた旨の記録が発見され、第三者委員会に報告がなされた。
 現時点で、消防本部から報告されたところによれば、これまでの通報・相談窓口への申出の実績は次のとおりである。
  平成29年度 1件
  平成30年度 4件
  令和6年度 3件
 上記平成29年度の記録は、「ハラスメント苦情等対応結果報告書」のみが残されており、申出がなされた以降の経緯は不明である。
 上記平成30年度の記録は、いずれも「ハラスメント苦情等申出書」のみが残されている。複数の申出書は当時の次長の決裁印が押印されており、受け付けがされていたことが明らかであるが、うち1件の申出書は決裁判(決裁印を押印するための枠)及び決裁印がなく、この申出書に関する関係者の供述内容も整合しないところであり、誰が申出書を受け付けたのかを含めて、どのように取り扱われていたのかを解明できなかった。しかも、平成30年度当時の消防長及び次長は、決裁印の押印された申出書について、所属長に対応をするよう伝達したのみであり、「相馬地方広域消防職員のハラスメント防止及び排除に関する規程」に基づく対応(ハラスメント事情聴取等記録簿への記載(第9条2項)、ハラスメント委員会への委任(第9条3項)あるいはハラスメント対応結果報告書への記載(第9条4項))はなされなかった。
 また、これらの記録が発見された経緯に照らして、当時の消防長及び次長から後任者に対するハラスメント事案の引継ぎが適切になされていたものとは認められない。
 以上のとおり、消防本部のハラスメント申出への対応は、規程が制定された当時から、規程に沿わないものであったことを、あらためて指摘する。
 なお、平成31年度以降、当委員会が設置されるまで、申出の実績が1件もないことは、職員において通報・相談窓口を信用、信頼していない状況であったものと考えられる。

 4 相馬地方広域消防本部におけるハラスメント関連記録の管理状況について
 当委員会は、令和6年12月12日、相馬地方広域消防本部及び南相馬消防署の現地視察を実施した。
 消防本部における、ハラスメントに関連する記録の管理状況を確認し、現時点においては、適切に管理されているものと認められた。
 ただし、ハラスメントに関連する記録を管理する役職者(次長)が異動する場合の記録の引継ぎに関して、事案毎の丁寧な引継ぎがなされていたものとは認められない。今後、ハラスメントに関連する記録の引継方法を具体的に定めた上で、後任者が相馬地方広域消防本部内におけるハラスメント事案の状況を適切に把握して職務にあたることが必要である。
 また、相馬地方広域市町村圏組合文書取扱規程には、ハラスメントに関連する各種記録の保存種別が定められておらず、今後、ハラスメントに関連する各種記録の保存種別を定めたうえで、適切に取り扱うことが必要である。

 5 法令を遵守する環境、組織風土を培うべきことについて
 委員会ヒアリングを通じて、とりわけ同一班の職員は長時間寝食を共にすることもあり、強い「仲間意識」が醸成されていることが認められ、個人が尊重されにくい土壌があると考えられる。
 情報ネットワークあるいは共用パソコン上に、職員の私的な写真、文書等も保存されており、それを他の職員が容易に閲覧できる状況にあることが認められ、公私の区別が意識されない状況が窺われた。
 消防の職務は、職員自身の身体の危険を内在しているという特殊性があり、また、職務上組織的な行動を必要とするため、他の組織よりも、指揮命令がより厳しいものとなりやすく、上位者の優越性が強化されやすいものと考えられる。
 そして、消防は、消防署建物に一般市民が立ち入ることや、消防車内に職員以外の者が同乗することはほとんどなく、第三者からの批判を意識しにくい環境であることから、以上のような問題点が改善されにくく、内部の慣習や前例が重視されやすいものと考えられる。
 職員自身の身体の危険を内在している場合であっても、相手職員の人格や尊厳を侵害する言動が正当化されることはないし、ましてや、通常の執務中においてまで、他の職種と比較しての特殊性を認めることはできない。
 以上の点を踏まえて、職員一人一人が「消防の特殊性」を理由にパワーハラスメントを許すことなく、個人を尊重し、公私の区別を意識し、現在の社会感覚にそぐわない慣習や前例と決別し、法令を遵守する環境、組織風土を 培っていくことが求められるものである。

 第3 相馬地方広域消防におけるパワーハラスメント防止対策について
 1 パワーハラスメント防止対策の進め方
 パワーハラスメント防止対策については、①パワーハラスメントの発生を未然に防ぐための取組、②パワーハラスメント発生直前あるいは直後の段階で早期に把握し、早期に解決するための取組、③パワーハラスメントが発生した場合にその被害拡大を防ぎ、再発を防止するための取組の3段階に整理することができ、各段階の取組を充実させることで相乗効果が得られるよう 進めることが適切である。
 また、防止対策を策定した後は、その進捗管理と評価検証を継続的に実施し、防止対策を更新していく必要がある。
 ここでは、相馬地方広域消防において現に多数のパワーハラスメントが発生している状況にあることから、以下、発生しているパワーハラスメントの被害拡大を防ぎ、再発を防止するための取組(下記2)、パワーハラスメント発生直前あるいは直後の段階で早期に把握し、早期に解決するための取組(下記3)、パワーハラスメントの発生を未然に防ぐための取組(下記4) の順に検討する。
 第二次答申書(中間答申)において、当委員会から、相馬地方広域消防としてのパワーハラスメントに対する実効性のある対策案を検討し、提出するよう求めたことに対して、令和6年11月18日、相馬地方広域消防本部から当委員会に対して「相馬地方広域消防内におけるパワーハラスメント行為に関する再発防止対策について(報告)」(以下「消防本部報告」という。)が 提出された。
 上記消防本部報告の「4 相馬広域消防内におけるパワーハラスメント行為防止に関する今後の対策」において挙げられている取組を踏まえ、当委員会として考えるパワーハラスメント防止対策について述べる。

 2 発生しているパワーハラスメントの被害拡大を防ぎ、再発を防止するための取組
 1) 取組におけるポイント
 発生しているパワーハラスメントの被害拡大を防ぎ、再発を防止するための取組においては、個別のパワーハラスメント事案に対する「組織としての対応力」を強化していくことが重要である。
 個別の通報、相談事案について適時、適切に対応することは、その事案の再発防止につながることに加えて、新たなハラスメント事案への抑止にもなる。
 消防本部報告が挙げる対策のうち、「⑵①被害職員への対応」「⑵② 加害職員への対応」「⑸①相馬地方広域市町村圏組合職員懲戒処分の指針に係る公表基準」「⑸②ハラスメントに関する相談・通報窓口から懲戒処分に至るまでの道筋を明確化し、所内研修で周知する。」が、主にこの段階の取組として位置づけられる。
 また、第二次答申書(中間答申)において指摘した、関連規程の不明確さを解消するための規程改正(見直し、消防本部報告P7)も、この段階の取組として位置づけられる。

 2) ハラスメント対応委員会の構成
 パワーハラスメント事案への対応に関して、現在のハラスメント対応委員会は、消防本部内の職員のみで構成されているが、外部の委員が含まれていないことは、公正中立な対応、社会通念に沿う対応を確保するという視点から不適切である。
 消防本部外の職員(組合事務局、看護学校)及び外部の委員を含む構成とすべきである。また、消防内の多様な意見を反映させるため、中堅若手職員、女性職員が含まれる構成が望ましい。

 3) 個別の通報、相談事案に対する事実確認の徹底
 個別の通報、相談事案への対応においては、通報、相談等があった場合の初期対応、特に事実関係の確認の徹底が極めて重要であるが、委員会ヒアリングにおいては、ハラスメントが疑われる事案において、事実関係を詳細に確認しないまま、加害職員とされる職員に注意、指導する、 あるいは、所属職員全体に対して注意する等の対応があったことが窺われた。
 パワーハラスメントに該当するかどうかは、具体的な事実関係(いつ・どこで(周囲の環境)、誰が(主体)、誰に対して(客体)、どうしたのか(行動))を前提として、評価として判断されるものであり、具体的な事実関係を十分に確認しないまま、「悪意がない」「悪気がない」等と安易に判断してパワーハラスメントに該当しないという前提で対応することは大問題である一方、具体的な事実関係を十分に確認しないまま、拙速にパワーハラスメントに該当すると決めつけて対応することも不適切である。
 この事実関係の確認において、被害職員とされる者、目撃した職員あるいは目撃したであろう職員、加害職員とされる者から、事実関係の認識(いつ、どこで、誰が、誰に対して、どうしたのか)を詳細に聴取し、それを第三者においても正確に理解できるように記録し(聴取者、聴取場所、聴取時刻等、調査過程にかかる事情も記録する)、かつ、事実関係の裏付けとなる資料(メールやSNS、写真等)を取得、保存しておく ことが必要である。

 4) 事実確認に関するスキルの向上
 相馬地方広域消防職員のハラスメント防止及び排除に関する規程及び消防本部報告が挙げる対策によれば、この事実関係の確認は、当初は消防本部総務課職員あるいは組合事務局総務課職員が行い(消防本部報告P6)、ハラスメント対応委員会に委任された後は同委員会が行うものとされている(規程第10条2項。なお、ハラスメント対応委員会の事務局を消防本部総務課に置くとされていることから(規程第10条4項)、消防本部総務課職員がハラスメント対応委員会の事務局として事実関係の確認を行うこともあり得る)。
 これらの事実関係の確認を行う職員のスキルが向上していくことが必要であり、自治体等における実際のハラスメント対応事案について事実確認の手法を学ぶ等、実践的な研修の機会があることが望ましい。
 また、事実関係の報告を受ける立場となるハラスメント対応委員会の構成委員は、それぞれが、報告において事実関係の確認が十分になされているかどうかを判別できるスキルを身に付ける必要があり、その研修 の機会が求められる。

 5) 被害職員に対する対応結果の報告
 相馬地方広域消防職員のハラスメント防止及び排除に関する規程において、ハラスメント事案の対応結果について、ハラスメント対応委員会委員長から被害職員に対して報告しなければならないとされているが(規程第12条3項)、これまで、対応にあたった職員から被害職員に対する対応結果の報告が適切にされていなかったものと認められる。
 被害職員の被害拡大を防ぎ、加害職員によるパワーハラスメント再発を防止するため、被害職員に対する対応結果の報告が徹底されるべきである。

 3 パワーハラスメント発生直前あるいは直後の段階で早期に把握し、早期に解決するための取組
 1) 取組におけるポイント
 パワーハラスメント発生直前あるいは直後の段階で早期に把握し、早期に解決するための取組においては、職員が組織に対してパワーハラスメント発生直前の状況であることや、パワーハラスメントを受けたこと を申告しやすい組織風土であることが重要である。
 消防本部報告が挙げる対策のうち、「⑴②ハラスメント等の対応策に関する内部規程の見直し」「⑴④日々指名によるハラスメント未然防止員の職場内の観察」「⑷①相談・通報窓口の複数化」「⑷②規程に基づく対応」「⑷③アンケート調査の実施」「⑷④個人面談の実施」が、主にこの段階の取組として位置づけられる。
 消防本部報告が挙げる対策が「相談のしやすさの確保」に1つの重点を置き、通報・相談窓口の複数化や、外部の相談機関設置を挙げている点は妥当であり、速やかな設置が求められる。
 ただし、このように通報・相談窓口を複数化等したのみで、ハラスメント事案の通報、相談のしやすさが直ちに確保されるものとは考えにくい。実際に個別の通報、相談がなされた事案について、適時、適切な対応がなされることによって、通報・相談窓口への信頼が次第に醸成され ていき、通報、相談のしやすさにつながっていくものと考える。

 2) 通報・相談窓口
 相馬地方広域消防は、職員数が約150人と比較的小規模な消防本部で あるうえ、4分署を有し、更に、各所属において2班に分かれていることから、各班あたりの人数が少なく、ハラスメントの通報、相談がなされた際に人物が特定されやすい環境であるといえる。
 このような環境においては、消防本部報告が挙げる対策にある通報・相談窓口の複数化や、外部の相談機関設置は必須である。
 更に、他の職員の言動に疑問を感じた段階でも、早期に通報・相談窓口に相談することを推奨し、パワーハラスメント発生前の段階で早期に問題を把握できるような体制の構築が肝要である。
 そのうえで、窓口、機関に申出がなされた通報や相談をどのように取り扱うのか、仮に、消防本部総務課の職員が関与している事案であった場合にはどのように処理するのか等についても検討し、対応できるよう にしておく必要がある。

 3) 情報伝達に関する留意点
 相馬地方広域消防は、2つの消防署のほか4分署を有し、小規模の事業所が分散している特徴がある。このことから、各事業所におけるハラスメント事案について、消防本部において適時適切に情報を把握するこ とについて課題が生じやすいと考えられる。
 他方で、ハラスメント行為の注意を受けた職員について配置転換がなされた後、配置転換後の直属の上司が、当該職員が前任地でハラスメント行為の注意を受けたこと自体は知らされていたものの、どのようなハラスメント行為で注意されたのかについて知らされておらず、当該職員の見守り、観察をするポイントが分からず苦慮していた事案があったことが窺われた。
 消防本部と各消防署、分署等、必要な組織間の情報伝達を適切に行う必要があり、適切に行われているかどうかについて、例えばシミュレーション演習を実施することが考えられる。

 4) アンケートの実施
 第二次答申書(中間答申)において指摘したとおり、消防本部が実施したアンケートにおける回答の自由記載等をみると、アンケートがパワーハラスメントの抑止力になっているとして、アンケートの継続を求める者が少なくない。
 アンケートは、パワーハラスメントにつながる事情、状況について、加害職員あるいは被害職員自身の気付きや、組織としての把握につながる取組として有効であり、今後もパワーハラスメント防止対策として、 継続的に実施すべきである。
 アンケートの実施主体については、本来はハラスメント対応委員会が実施すべきものであるが、ハラスメント対応委員会の体制が整うまでの間は(前記第3 2 2)を参照)、当面は、消防本部外の職員(組合事務局、看護学校)及び外部の委員を含む構成で実施すべきである。
 なお、委員会ヒアリングにおいて、上司が部下に対してアンケートへの回答を早く提出するよう催促し、部下が上司の面前でアンケートに回答していたという事案を聴取した。このような回答の仕方では、ハラスメントの被害を記載することは難しく、加害の隠蔽にもつながる。また、職員自身の気付きや組織としての情報把握につながりにくい。アンケートの実施方法においても、本心による回答が得られるよう留意する必要 がある。
 アンケートを実施した後は、アンケート結果を精査し、公表するとともに、ハラスメント防止対策に活かしていくことが必要である。

 5) ハラスメント事案への対応プロセスの明確化、可視化と周知
 ハラスメント事案への対応プロセスについて、全ての職員が理解できるよう、フローチャートなどを作成して明確化、可視化したうえで、職員全体に周知し、ハラスメント事案への対応の透明性を高めておくこと は、通報、相談のしやすさにつながると考えられる。
 消防本部報告が挙げる対策において、規程に基づく相談から解決まで の道筋を記載していること(報告P9~10)は適切であるが、それぞれの対応主体や想定される対応(場合分けした対応を含む)等をより具体 的に記載したフローチャートを作成し、職員全体に周知することが望ましいと考える。

 6) 産業医の選任
 産業医を選任することにより、産業医面談等を通じて被害職員の心身の不調等を早期に把握することで、ハラスメント事案に早期に対応することが可能となる。
 また、専門的知見に基づく、職員の心身の健康に関する指導助言、アンガーマネジメント等の具体的な行動変容につながる指導助言等を得ることができ、更に快適な職場環境の形成に関する指導助言等を得ることができる(後記第2 4とも関連する)。
 相馬地方広域消防において、パワーハラスメント防止対策の観点から、産業医を選任することが必要である。

 4 パワーハラスメントの発生を未然に防ぐための取組
 1) 取組におけるポイント パワーハラスメントの発生を未然に防ぐための取組においては、職員一人一人が、パワーハラスメントを防止するための取組や、意識の改善に関与することが強く求められるところであり、職員一人一人の行動変 容が重要である。
 消防本部報告が挙げる対策のうち、「⑴①ハラスメント等を撲滅する ための消防長の意思の明確化」「⑴③ハラスメント等撲滅推進会議の設 置と開催」「⑶①職場の環境改善」「⑹①職員研修」「⑹②自己啓発」 が、主にこの段階の取組として位置づけられる。
 消防長がハラスメントを根絶する意思を明確にし、それを周知徹底することは重要ではあるが、それを、ハラスメント根絶に向けた職員の意識の涵養につなげていく必要がある。消防長は、新たに設置された「ハラスメント等撲滅推進会議」が計画している方策について、責任をもっ て着実に実施していくべきである。
 ただし、「ハラスメント等撲滅推進会議」の実効性を確保するためには、優越的な関係に立ちやすい所属長、中隊長、係長クラスの職員のみによる構成は望ましくなく、半数程度は若手の職員とし、委員の毎回の出席を確保できる小規模の構成とすべきである。これは、被害職員となりやすい職員の意見を反映させるとともに、優越的な関係に立ちやすい職員の意識の涵養にも資するものと考える。
 なお、酒席に関して、消防本部報告が挙げる対策では自ら注意すべき点を指摘しているが、酒席での行為については、加害行為を目撃した場合の対応も含めて、一人一人の行動変容が必要と考えられることを再度 指摘する(前記第2 2参照)。

 2) 研修の実施
 第二次答申書(中間答申)において指摘したとおり、委員会ヒアリングにおいては、研修によるハラスメント防止の効果があったとする意見も一定数あった。
 研修は、ハラスメント根絶に向けた職員の意識の涵養につながる取組としても有効であり、今後もパワーハラスメント防止対策として、継続的に実施すべきである。
 ただし、ハラスメント対応委員会が実施主体となり、具体的な研修内容の実施計画を策定し、研修結果のフィードバック・公表を適時適切に行うべきである。
 また、消防本部報告が挙げる対策にあるように、全職員向けの研修のほか、階層別の研修を実施すべきであり、特に、優越的な関係に立ちやすい所属長、中隊長、係長クラスに対する研修は受講を義務づけるなど、実効性を確保することが考えられる。

 3) パワーハラスメント事例の周知
 消防本部報告のうち「5 まとめ」の項目において、「消防は、その職務の性質上から、指揮命令系統が確立され、安全管理のため一定程度の厳しい指導や訓練が行われています。これらは人命にかかわる職務である以上必要不可欠なものではあるが、業務上必要な指導とパワーハラスメントとの線引きが難しいという課題は以前から指摘されています。」としている点(消防本部報告P11)について、当委員会が事実認定をしてきたパワーハラスメント事案が十分に認識、理解されているかどうかについて懸念を抱かざるを得ない。
 当委員会においてこれまで事実認定をしてきたパワーハラスメント事案は、いずれも、業務(指導を含む)上、全く必要性がないか、あるいは、指導のための口調、言葉遣い、行動として明らかに不適切なものであって、業務上必要な指導との線引きが難しいような事案は含まれていない。
 仮に、相馬地方広域消防において、当委員会がこれまで事実認定をしてきたパワーハラスメント事案の中に、業務上必要な指導との線引きが難しいものが含まれていると考える職員がいるとすれば、そのような感覚が、社会一般の組織における感覚と比較して著しい乖離があることを、あらためて指摘せざるを得ない。
 消防本部報告が挙げる対策において、全国公務員の不祥事事例を周知することが挙げられているように(消防本部報告P7)、当委員会による答申書を含めて、パワーハラスメントと認定された事案にかかる具体的な行為及びパワーハラスメントにあたる理由を、積極的に職員に周知していくことは、ハラスメント根絶に向けた職員の意識の涵養に必要であると考えられる。

 4) 社会一般の組織における感覚を根付かせていくこと
 委員会の調査の過程において、相馬地方広域消防の職員の中には、加害職員のみならず、パワーハラスメントの受け止め方が、社会一般の組織と比較して著しい乖離がある者が少なくないと判断された。このような事情もパワーハラスメントの温床となっていると考えられる。
 社会一般の組織における感覚を、相馬地方広域消防の組織内に根付かせていくことは極めて重要であり、特に管理職クラスの職員について、組合を構成している市町村職員との人事交流を行うことなどが必要であると考える。

 5 パワーハラスメント防止対策の進捗管理、評価検証及び更新
 消防本部報告では、パワーハラスメント行為防止に関する基本方針について、適宜見直し、継続的な改善に努めると記載されているが(消防本部報告P6)、具体的な対策の見直しの進め方について触れられていない。
 パワーハラスメント防止のための具体的対策について、それぞれの実施のスケジュールを明確にすることはもちろんのこと、進捗状況を定期的に確認したうえ、それぞれの対策がどの程度奏功しているか、どのような修正すべき点があるかについて、定期的に評価検証し、継続的に更新していくことが 肝要である。
 少なくとも、どの立場の者が、あるいはどの組織が、どのようにして、防止対策の進捗管理、評価検証をするのか、また、その進捗や評価検証結果について、どのようにしてフィードバックするのかを定めておくべきである。
 なお、行政組織において、外部委員を中心とした評価検証のための委員会を設置し、施策の適正を定期的に検証することは一般に行われているところである。相馬地方広域消防においても、組合を構成している市町村の職員や、学識経験を有する者を構成員とする評価検証のための委員会を設置し、パワーハラスメント防止対策にかかる評価検証を定期的に実施することが望まし いと考える。

 第4 おわりに
 パワーハラスメントを含むあらゆるハラスメントの防止対策は、全ての職員にとって働きやすい快適な職場環境を形成し、もって地域住民へのサービスを持続、向上することを目的とすべきである。
 この目的を実現するためには、被害職員となりやすい職員がハラスメントの防止対策に関わる枠組みを確保したうえで、優越的な関係に立ちやすい職員の意識改革を図ることが必須である。
 本最終答申書を踏まえ、一人一人の職員が自覚と責任をもって参画することにより、具体的な対策を速やかに進められたい。

以 上 

令和6年12月26日

相馬地方広域消防内におけるパワーハラスメント行為に関する第三者委員会
  委員長 安村誠司
  委員  藤野美都子
  委員  渡辺慎太郎


《カウンセラー松川のコメント》

第三者委員会から最終答申が提出され、公表されました。
各種提言も現実的ではありますが、これを実行するか否かは幹部の気持ち次第。
ここで「たかが部外者の理想論」とか「そのうちに」
そんな姿勢であれば、改善は無理でしょう。
幹部のお手並み拝見と言えます。

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