2024年7月21日日曜日

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相次ぐパワハラ、セクハラ、首長ら対象にした防止条例全国に広がる
 皮切りは東京・狛江市

 

2024年7月21日() 18:53 産経新聞

 

兵庫県の斎藤元彦知事を巡り取り沙汰されている、首長によるパワーハラスメント。社会全体でハラスメント根絶に向けた動きが進む一方で、地方自治の現場では職員へのハラスメント行為が明らかになった首長が辞職に追い込まれるケースも相次いでいる。任命権や人事権を持つ首長に職員が声を上げるのは難しいという構図もあり、近年は首長や議員を対象としたハラスメント防止条例を制定する動きも進んでいる。

 

「条例の制定で気軽に相談でき、仕事がしやすくなった」。平成30年に全国で初めて市長などの特別職を対象としたハラスメント防止条例を制定した東京都狛江市。施行から6年を前に、市職員からは歓迎の声が聞かれる。

 

同市が条例制定に踏み切ったきっかけは、前市長による複数の女性職員に対するセクハラ問題。市には職員のハラスメント防止規則はあったが、市長などの特別職や議員らは対象外だっため、議員提案により制定された。

 

新たに外部相談窓口を設け、職員のみで構成されていた苦情処理委員会に外部有識者を加えるなどとした。担当者は「毎年、研修も行われ、庁舎全体のハラスメントへの意識が高くなっている」と話す。

 

だが、首長によるハラスメント行為が明らかになる事例は近年、後を絶たない。今年3月には女性職員への99のセクハラ行為などを認定された岐阜県岐南町長が辞職。続く4月には複数の女性職員らへのセクハラ行為を認定された同県池田町長が辞職し、5月にも複数の職員に「お前らの脳みそは鳩より小さい」などのパワハラ発言やセクハラ行為をしていたと認定された愛知県東郷町長が辞職した。

 

適切な職場環境構築に向け、各自治体では対応が進む。総務省の調査では、全国の地方自治体の約9割(令和5年6月1日現在)が、ハラスメントに関する職員からの相談に対応するための体制を整備済み。一般財団法人「地方自治研究機構」によると、職員や議員のハラスメント防止に関する単独条例は全国で56条例(6月24日時点)制定されており、うち10以上が首長など特別職も対象としている。

 

前市長が家庭用サウナを市役所に持ち込むなどした問題で辞職に追い込まれた大阪府池田市も、令和3年にハラスメント防止条例を制定。サウナ問題を調べた市議会の調査特別委は、前市長が市職員を大声で叱責するなどのパワハラ行為があったとする報告書をまとめており、市長などの特別職を含む職員と市議の両方を対象としている。

 

ハラスメント研修を行う必要性を指摘した調査報告書を反映させ、第4条では「市長は職員のハラスメントの防止の実効性を高めるために必要な研修を実施するとともに、不断の自己研鑽(けんさん)に努めなければならない」と研修の実施を明文化。市長、市議も研修に取り組むことでハラスメントを起こさない風土づくりに取り組んでいるといい、担当者は「(制定以降)ハラスメントに関する相談は聞いたことがない」と手応えを話した。(木下倫太朗)

 

■「現行法では想定外。特別職も対象にした条例制定を」 名城大学教授の昇秀樹氏(行政学)

 

日本の法律では、首長がハラスメントをするということはあまり想定されていなかったのではないか。そもそも地方公務員法などは一般職が対象で、首長などの特別職は適用外だ。選挙で選ばれた人物を過度に縛るのではなく、もし不適当なことがあれば、リコールや次の選挙などで辞めさせるというのが現行法の考え方だろう。

 

しかし、現状は不十分と言わざるを得ず、やはり特別職も対象にしたハラスメント防止条例を制定した方がいい。また、議員から自治体職員へのハラスメントについても、条例をつくることで、議員も当局も意識が変わるだろう。

 

日本ではさまざまな政治課題について、先進的な自治体が打った対策が他の自治体にも広がり、やがては国が後追いで法律化する場合が多い。地方自治体が「政策の実験室」としての機能を果たしている。各自治体がハラスメント防止条例にチャレンジし、良いものが他の自治体にも広がることで政策形成していく形がコストベネフィットが高いだろう。(聞き手 木津悠介)

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