2024年7月2日火曜日

▼「この中の誰かが漏らしたことになる」現金30万円入り封筒出し、当時の理事長は土下座した バトンコーチ性暴力問題

「この中の誰かが漏らしたことになる」
現金30万円入り封筒出し、当時の理事長は土下座した
 バトンコーチ性暴力問題

 

2024年7月2日() 9:00 京都新聞

 

 息子(19)の性暴力被害を訴えた両親の前に、日本バトン協会の女性理事長(当時)と、チームの男性責任者がいた。両者はそろって土下座すると、容疑者(40)から預かってきたという現金30万円入りの封筒を両親に押しつけ、こう申し向けた。「このことを知っているのは私たちだけ。他の人が知ったなら、この中の誰かが漏らしたことになる」

 

 バトントワリングのチームで、コーチの容疑者が教え子に性暴力を加えていたとされる事件。息子の被害を知った両親は昨年3月、バトン競技を統括する同協会にメールで複数回にわたり、被害を訴えた。程なくして先方から指定された京都市内の貸し会議室を訪れると、冒頭のやりとりが繰り広げられた。両親には「もみ消し」にしか映らなかった。現金はもちろん突き返した。

 

 何よりも被害の真相解明、心からの謝罪を求めての訴えだったが、望みは打ち砕かれた。やがて容疑者がチームを離れると、理事長とチーム責任者は「辞めた人のことは関係ない」と応じなくなった。

 

「先生に戻ってほしい」声に両親や息子は

 対応の遅れは、被害者をさらに傷つけた。息子と容疑者の関係について「付き合っていた」「行為は同意の上だった」などと、事実無根のうわさを周囲で耳にした。真相を知るよしもない他の保護者からは「先生に戻ってほしい」との声も上がり、両親や息子はいたたまれない思いを抱え続けた。

 

 このままでは被害が闇に葬られてしまう…。両親は昨年6月、業を煮やして協会宛てに告発文を提出した。すると協会の理事会が問題を把握することになり、翌月、弁護士3人でつくる外部調査委員会が立ち上がった。調査委は昨年12月、一連の性暴力被害をまとめた報告書を公表。理事長とチーム責任者のこれまでの対応を厳しく非難し、協会側も両者について、会員資格を停止する処分を下した。

 

「神のような存在」

 当初の協会の対応の在り方について、バトントワリング界のある関係者は、国際大会で数々の実績を誇るチーム責任者が、国内で「神のような存在」と称されるほど実力を有していたと指摘した上で、「協会もこのチームには口出しできなかったのだろう」と話す。息子の父親は「協会がもっと早く動いていれば、ここまで苦しまずに済んだ。ハラスメントがあれば、迅速に対処できる組織に変わらないと、誰も安心して競技ができない」と訴える。

 

 協会は性暴力被害の発覚を受けて、外部委託のハラスメント窓口を設置した。内田圭子・新理事長は取材に対し、「初動対応が非常に悪く、被害者と家族に大変な迷惑をかけた」と非を認め、現在も競技に復帰できずにいる被害者をサポートしていくと述べた。

 

 ◇

 華麗な演技で人を魅了するバトントワリングの有名コーチによる性暴力事件。事態を把握した日本バトン協会のずさんな対応も被害者本人や家族に追い打ちをかけた。被害の深刻さと、あるべき対応を考えたい。

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