部下が50代上司の業務指導に「パワハラ」と誹謗中傷。
無視や反抗的な態度を取る部下に追い込まれた上司と会社が下した判断
2025年10月21日(火) 7:00 フジテレビ
近年増えてきているのが、「ハラハラ」だ。
これは「ハラスメント・ハラスメント」や「逆ハラスメント」と言われ、部下が上司へハラスメントすることを指す。こうしたことから、部下を傷つけるのが怖くなって指導が緩くなってしまったり、上司の助言などを受け入れられずに、ハラスメントという言葉に逃げる部下も出てくることもあるという。
誰にでも起こりうるハラスメント問題の理解を深める、社会保険労務士・村井真子さんの著書『職場問題ハラスメントのトリセツ』(アルク)から一部抜粋・再編集して紹介する。
50代男性会社員の事例
【上司の業務指導をパワハラだとして誹謗中傷する部下】
相談:
部下についての相談です。私は、証券会社で法務部の課長をしています。業務の性質上、誤りが許されないことが多いので、部下の書類は細かく確認・指導していて、それが私の仕事でもあると思っています。
しかし、私の指導について一部の部下が「威圧的だ」「パワハラではないか」と騒いだことがあり、それ以降、声をかけても無視される状態が続いています。私の指導については調査委員会による調査が行われました。
業務指導の範囲内であるとされたのですが、部下たちは調査結果も受け入れていないようです。
さらには無視だけでなく、私がパワハラ体質である、人格破綻者であるなどと誹謗中傷もしているようです。最近は体調がすぐれないこともあり休職を考えていますが、認めてもらえるか自信がありません。ヨウジ(50代・男性)
部下にパワハラ通報に…
ヨウジさんは昨年、直属の部下から社内のハラスメント相談窓口に「威圧的な指導をされる。パワハラではないか」と通報を受けました。
部下から申告のあった威圧的指導とは、資料の細かな確認や修正、ダブルチェックの要求などで、証拠として社内メールやSNSのスクリーンショットが提出されていました。
社内のハラスメント調査委員会が調査したところ、ヨウジさんの言動はパワハラにはあたらないと判断されました。
ヨウジさんは部下からの申告に動揺しましたが、パワハラではないと明言されたことで気を取り直し、改めて誤解をされないように注意しながら職務に取り組んできました。
しかし、通報した社員は調査結果に満足できず、ヨウジさんに反抗的な態度を取り続けてきました。次のような状態が、既に3カ月ほど続いています。
・ヨウジさんが口頭で呼びかけた場合に無視をする。
・チャットやメールなど、ヨウジさんからのテキストでの指示・指導には応えるが、修正したという報告はしない。
・コミュニケーションが成立しないため、調整前提での作業納期を、ヨウジさんが独断で設定していると吹聴する。
・「あの人はやばい。パワハラ体質なんだよ」「サイコパスなんだと思う。人の心がないんじゃない」など、同僚や後輩社員らに話す。
ヨウジさんは精神的に追い込まれ、現在は心療内科に通院しながら業務にあたっています。主治医からは適応障害の診断を受けており、一定期間の休職を希望して、人事担当の役員に相談してきました。
会社は上司の「休職」を認定
担当役員はヨウジさんの状態を聞き、まずは3カ月の休職を認めました。その際、休職中の賃金をどうするかが役員会での争点になりました。
というのも、ヨウジさんは適応障害の原因は部下の反抗的態度にあると考えており、労災での申請を希望したからです。
労災が認められれば休業補償給付が支給され、私傷病で受けることができる傷病手当金よりも、本人が受け取れる金額が増えます。会社としては、ヨウジさんに精神疾患の既往症がないことも考慮し、労災の手続きを取りました。
また、反抗的な態度を取っていた部下に対しては、無視の事実やメール等テキストコミュニケーションの履歴を確認した上で、ヨウジさんの指導に従わないことは労働契約の債務不履行にあたると伝えました。
そして、この社員を異動させ、ヨウジさんと接点がない支店勤務を命じました。この社員は不服だったようですが、会社は人事権を行使してヨウジさんの帰る場所を確保しようとしたのです。
こうしたハラハラ・逆ハラスメントの事例はまだ多くはありませんが、いくつかの裁判により、部下から上司に対してもパワハラが成立することが示されています。
例えば、上司を中傷するビラを社内外に配布した社員の解雇を有効とした事件(注:1)や、年配の男性職員が年下の女性主任の下に配属された後、指示を無視したり大声を出すなどの威圧的言動に出るようになったため配置転換を指示した例(注:2)があります。
常識的に考えて正当な内容であれば、上司の指示に従うことは部下の「仕事」であることを理解すべきです。素直に従うことが求められていることはもっと意識されるべきと考えます。
なお、精神疾患による労災認定については、「心理的負荷による精神障害の認定基準」によって行われます。労災として申請されたすべての精神疾患が認められるわけではないことを申し添えます。
注1:日本電信電話事件(大阪地裁判平成8年7月31日)
注2:社会福祉法人蓬莱の会事件(東京高裁判平成30年1月25日)
《カウンセラー松川のコメント》
ニュース冒頭の
「近年増えてきているのが、「『ハラハラ』だ。
これは『ハラスメント・ハラスメント』や『逆ハラスメント』と言われ、
部下が上司へハラスメントすることを指す。」
この段階で「ハラスメントハラスメント」と「逆ハラスメント」を
混同している例となりました。
〇〇ハラスメントが氾濫するあまり、記者も理解出来なくなっているのでしょう。
ハラスメントが上から下への加害が多いことから、
下から上への加害を「逆ハラスメント」と称している様ですが、
ハラスメントの要素として職位の上下とは無関係で、
単に立場の優位性が問われているのです。
一般的には職位が上の者の方によるパワハラ加害が多いので、
ここでも誤ったイメージが浸透している訳です。
さて、ニュースでの事例ですが、これはハラスメントに当たらない場合が多いです。
それは、部下の優位性が少ないからです。
・部下が他の同僚を仲間にして数を頼りに反抗的な態度で臨む
・上司が不慣れな業務で部下の支援が無いと遂行不可能
この様な環境でなければ、部下からのパワハラは成立し難いからです。
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