2022年10月7日金曜日

「お立ち台に上がる」衆目の前での叱責…日野不正の一因は「パワハラ」、役員一部辞任へ

「お立ち台に上がる」衆目の前での叱責
…日野不正の一因は「パワハラ」、役員一部辞任へ

 

2022年10月7日() 6:58 読売新聞(都築建、中村徹也)

 

 トラックやバスに搭載するエンジン性能試験の不正を巡り、日野自動車が7日にも、役員の処分を公表する。不正は20年に及び、日野は国内で車が販売できない事態に追い込まれた。信頼は地に落ちた。なぜ不正は起こったのか。

 

「無理な指示」逆らえず 実験部 ブラックボックス化

 

きょうにも処分

 小木曽聡社長は続投するが減給処分とし、不正の責任が重いと判断された一部の役員は辞任する見通しだ。国土交通省に再発防止策を報告した後、7日夜に処分を公表する模様だ。

 

 8月2日、外部の弁護士らでつくる特別調査委員会は、中大型トラック向けエンジンを巡る不正についての報告書を公表した。日野が不正を発表した3月以降、調査委が役員や社員らに聞き取り調査した結果、不正は少なくとも2003年以前から、約20年にわたって行われていたことが判明した。

 

 「こんなことが放置されていたのか」。日野のある役員は、社内イントラネットに上がった報告に驚がくした。しかし、不正の実態はさらに拡大する。調査委の報告から、わずか20日後、国交省の指摘で小型トラック向けのエンジンでも不正が発覚。当時、販売していたトラックやバスに搭載する全エンジンで不正が見つかり、日野は国内で、何も販売できなくなった。

 

丸投げ

 なぜ不正は長期に及んだのか。調査委の報告書では、その原因が分析されている。

 

 不正の舞台となったのは、エンジン開発を担う「パワートレーン実験部」だ。他の部が手がけるエンジンを開発終盤で預かり、排ガスや燃費性能が規制値や目標値に届いているか確認する作業を担っていた。

 

 日野ではエンジンや車種ごとに開発プロジェクトが組まれ、各部署から人材を割り当てていた。縦割りを打破し、問題解決に全員で協力する狙いだったが、実態は大きく異なっていた。同じプロジェクト内でも、自分の担当以外の工程には口を挟まず、逆に他部にも協力を求めない。縦割り意識は根強くはびこっていた。

 

 中でも、実験部は専門性が高い。入社から他部署を経験していない人材も多く、「ブラックボックス化」(調査委)していた。プロジェクト全体を管理すべき開発責任者らも、試験内容を把握しておらず、実験部に丸投げだった。

 

 一方、経営陣は車種増加や海外の販路拡大に走り、開発スケジュールは逼迫(ひっぱく)していった。スケジュール厳守が求められる中、実験部は不正に手を染めていったという。

 

 調査委員長の榊原一夫弁護士は「能力やリソースに関し、現場と経営陣の間に断絶がある」と断じる。実験部の不正は、部外の目が届かない水面下で長年、続けられてきた。

 

見せしめ

 不正の根幹には、日野の社風や体質にも問題があった。調査委は社員へのアンケートで、「パワーハラスメントに関する指摘が多い」という印象を持ったという。

 

 開発などのスケジュールが遅れると、担当部署の社員は、他部署の社員も参加する会議で、上司からミスを責め立てられた。衆目の前で見せしめのように叱責(しっせき)されるさまは、社内で「お立ち台に上がる」とやゆされた。

 

 上司やOBにモノを言えない「上意下達の気風」も問題視された。

 

 05年、副社長退任後、技監となっていた男性が参加する会議が開かれた。技監は、国が示す15年度を目標とする燃費基準を念頭に、エンジンの燃費性能を早期に改善するよう指示した。技監は長年、日野のディーゼルエンジン開発をリードしてきた。

 

 技監の指示は、当時の開発状況ではハードルが高く、現場では対応できるものではなかった。だが、開発部門の管理職は指示を安請け合いし、無理が生じた現場が性能を偽る不正に走った。報告書は「日野では上司に逆らえない雰囲気が醸成され、パワハラが生まれやすくなっている」とし、「この体質が部下や現場に無理を強い、不正に追い込む一因になった」と指摘する。

 

窮地

 国は9月、日野に対し、道路運送車両法に基づく初の是正命令を出した。日野は近く、国土交通省に再発防止策を報告する。歴代経営陣の責任追及についても検討を進めている。

 

 しかし、ある幹部は「責任が明確になっても、顧客が戻ってくるわけではない」と危惧する。

 

 日野の経営は窮地にある。一部のトラックやバスの生産は再開したが、型式指定が取り消された車種は少なくとも来夏まで生産が止まる見込みだ。

 

 日野の22年3月期連結決算の最終利益は、過去最悪の847億円の赤字を計上した。23年3月期の業績予想も公表できない状況だ。米国では不正を巡り、物流業者などから損害賠償や契約取り消しを求める訴訟を起こされた。巨額賠償に発展すれば、経営への打撃は避けられない。

 

 日野の生産停止が長引けば、取引先の部品メーカーへの影響も甚大になる。金属部品を納入する中小企業の男性経営者は、「経営は火の車。毎日、銀行から経営状態を心配する電話が来る。20年も不正を把握できないのはおかしい。裏切られた思いだ」と憤る。

 

 国、取引先、そして顧客。不正で失った信頼は計り知れず、回復への道のりは果てしなく遠い。

 

「会社の体なしていない」…弁護士・久保利英明氏

 企業不祥事の調査に詳しい久保利英明弁護士に問題点を聞いた。

 

 ――今回の不正の特徴は。

 

 一番の問題は(排ガスや燃費の)基準をクリアしているか検査する部署と、その内容をチェックして国の認証取得に向けた作業を担う部署が同じという点だ。利益相反の作業を、同じ部署が兼ねる会社が、ほかの製造業にあるだろうか。

 

 好き勝手させた経営体制も問題で、社外取締役を含むガバナンス体制もきちんとチェックするべきだった。データ偽装など多くの不祥事が自動車業界であったが、率直に言って、日野は会社の体をなしていない。

 

 ――報告書の評価は。

 

 5か月調査した後に、国の調査で小型トラックでも不正が見つかったのはあり得ない。なぜ「小型は大丈夫か」とならなかったのか。日野も自ら、追加調査を申し出るべきだ。この組織に、自動車という危険をはらむ製品を作らせていいのかと思ってしまう。

 

 ――親会社のトヨタ自動車の責任は。

 

 トヨタは日野を監視・監督する責任がある。なぜトヨタのような会社が日野の状況を是正できなかったのか疑問だ。今のまま日野を傘下に入れておくのは、トヨタや株主のためにもならない。トヨタが次にどう動くのか注目される。


《カウンセラー松川のコメント》

新聞記事は会社組織としての国に対する不正に関する記事ですが
その中にパワハラに触れている部分もあり拙ブログで記事化致しました。
無理な事、出来ない事を「出来ない」と言えばパワハラ被害に遭うだけなので、
不正だあろうと、嘘であろうと形だけ繕ってしまい完了とする。
組織内だけの不正ならば自業自得で済みますが、
消費者や無関係な者にまで影響を及ぼす案件で不正が当然では
それは社会の敵になるだけです。
利益追求は民間企業として当然ですが、
パワハラを土壌とした不正横行は社員の心を蝕むばかりでなく、
企業価値を落としますし、企業存続にも影響を与えるでしょう。
その様な利益追求は最早愛社精神ではなく、単なる利己主義です。
形ばかりの結果を生むことで自己の地位を確保しているだけです。

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