2024年6月20日木曜日

▼「スポハラ」相談急増、きっかけはバスケ部主将の自殺…「責任をとれ」「丸刈りに」退部して転校も

「スポハラ」相談急増、きっかけはバスケ部主将の自殺
…「責任をとれ」「丸刈りに」退部して転校も

 

2024年6月20日() 16:20 読売新聞(長沢勇貴、土谷武嗣)

 

 スポーツの現場で指導者による暴力やハラスメントなどの被害が後を絶たない。日本スポーツ協会(JSPO)は「スポーツ・ハラスメント」(スポハラ)と定義しており、相談件数は昨年度、485件と過去最多を記録。近年は暴力に代わって暴言やパワーハラスメントの割合が高まっており、根絶に向けた取り組みも広がりつつある。

 

きっかけはバスケ部主将の自殺

 JSPOは暴力や暴言のほか、言葉や態度による人格の否定や威圧などをスポハラと捉え、2013年に根絶を宣言した。大阪市立(現・府立)桜宮高校で顧問に体罰を受けたバスケットボール部の主将が12年に自殺したことがきっかけだった。

 

 JSPOへの相談件数は窓口開設当初の14年度に23件だったが、年々増え、23年度は前年度比2割増の485件に上った。相談内容は暴言が最多の39%で、パワーハラスメントが22%、暴力は10%だった。被害者のうち小中高生が67%を占めた。

 

 最近は指導者による丸刈りの強要を訴えるケースが目立つ。関西大北陽高(大阪市)のハンドボール部では3月、監督らが部員に丸刈りを強要したことなどが判明。岐阜県立池田高では、運動部の監督が22年に部員らに「全員丸坊主にするか」と発言し、部員の大半が丸刈りにしたという。大阪府豊中市立中のハンドボール部でも21年、当時の部員が顧問に丸刈りを強要されたと保護者から訴えがあり、市教育委員会が調べている。

 

 大阪体育大の土屋裕睦教授(スポーツ心理学)は「暴力はいけないという意識は浸透しつつあるが、チームを強くしたいとの思いから暴言を吐くケースが増えている。丸刈り強要などのハラスメントも生徒の心を傷つけ、指導とは言えない」と指摘。「地域クラブの指導者には教員免許のような資格がないため、適切な指導を学ぶ環境を整える必要がある」と話す。

 

根絶へ検定や講習会

 元ラグビー日本代表の平尾剛・神戸親和大教授(スポーツ教育学)は3月、一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」(神戸市)を設立した。今夏から人権などの知識を問う検定事業を始める予定だ。平尾教授は「多忙で新たな指導方法を学ぶ時間がない教員も多い。保護者や子どもらにも正しい知識を学ぶ機会を提供したい」と語る。

 

 大阪府バスケットボール協会は今年度、指導者と保護者がハラスメント防止の講習会に出席することを小学生年代の大会参加要件に加えた。従来はどちらかが参加すればよかったが、双方の意識向上が不可欠として厳格化したという。

 

1か月後「責任の件はどうなった」

 関西大北陽高のハンドボール部で監督から丸刈りを強要された元部員(16)の母親が読売新聞の取材に応じた。「理不尽な指導で多くのことを学べるはずの貴重な時間を奪われた」と憤りを口にした。

 

 元部員が競技を始めたのは中学1年の時。大学までプレーを続けたいと願い、昨年4月、全国大会への出場歴がある同校に入学した。

 

 だが、半年後、授業中にスマートフォンを見ていたとして監督の男性教諭に「責任を取れ」と迫られた。約1か月後にも「責任の件はどうなっているのか」と問われ、どうしていいかわからずに尋ねると、「丸刈りにするということだ」と言われた。

 

「懲罰ではなく対話で」

 元部員は嫌だったが、「やらなければ部活を続けられない」と感じ、美容院で丸刈りにした。その後、精神的に不安定になって登校できない日があり、次第に部活からも足が遠のいた。退部や転校を考えるようになったという。

 

 今年3月、母親から抗議を受け、学校側が監督やコーチに聞き取り調査を行い、元部員らへの丸刈り強要に加え、部員への暴言や体罰も判明。母親には校長から元部員に対する丸刈りの強要を認める電話があったが、監督らからの謝罪はなかった。2人は改善がみられたとして現在も部の指導を続けているという。

 

 元部員は3月末、退部して別の学校に転校した。ハンドボールはやめたという。母親は「監督らには懲罰ではなく対話を通じて指導してほしかった」と話した。

0 件のコメント:

コメントを投稿