法の「想定外」だった首長のパワハラ、条例で防ぐ
…「つくること自体が抑止力になる」
2024年10月3日(木) 9:30 読売新聞
兵庫県の斎藤元彦前知事を巡るパワハラ疑惑など、首長によるハラスメントが問題になる中、条例で首長のパワハラやセクハラを防止しようという自治体が出始めている。首長も禁止対象と明記し、相談窓口の設置や第三者機関による調査など、実効性のある対策を講じることが狙いだ。
◆「特別職」から31件
奈良県生駒市は、9月議会にハラスメント防止条例案を提出した。
職員だけでなく、市長や副市長ら特別職と議員もパワハラやセクハラをしてはならないと明記。外部に相談窓口を設けるほか、ハラスメントに当たるかの調査を実施する第三者機関の設置も盛り込んだ。特別職と議員のハラスメントが確認された場合は、公表される。
市には職員向けの防止指針はあるが、市長がハラスメントをした場合の対応が示されていなかった。全国的に首長のパワハラなどが相次いでおり、条例をつくることで対策を明示する必要があると判断した。
市が7月に職員や教員ら約2400人を対象に実施したアンケート調査では、特別職からハラスメントを受けたとの回答が31件あった。小紫雅史市長は同月29日の記者会見で、「反省し、重く受け止めなければいけない。働きやすい職場作りに向けて全力で取り組む」と強調した。
9月議会では、議員からアンケート結果が条例案に反映されているか確認する必要があるなどの声が上がって継続審査となったが、市は早期の可決を目指している。
◆「抑止力になる」
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)などでは、事業主に職場内のハラスメント防止の対策を取るよう義務づけている。地方公務員にも適用されるため、自治体は規則や指針といった内規でルール化している。
しかし、首長がハラスメントをすることは想定されておらず、自治体の内規で首長が禁止対象だと明記するケースは少ないという。
2020年に指針を策定した兵庫県は、ハラスメントを禁止する対象を「職員」と表記し、知事も含まれるとは明記していない。
自治体によっては、より透明性や実効性のある条例の制定を目指す動きが出ている。
自治体の課題を調査研究する一般財団法人「地方自治研究機構」の調査によると、ハラスメント防止条例を制定している自治体は9月3日時点で大阪府、福岡、長崎両県と61市区町村。多くがハラスメントの主体を議員としており、首長も対象にしているのは12市町となっている。
昇秀樹・名城大教授(地方自治論)は「予算や人事など権限が集中する首長は、職員との上下関係の中でハラスメントの主体になりやすい。条例をつくること自体、首長が自身の言動に気をつける抑止力になる」と指摘する。
◆再発防止策
首長によるハラスメントが実際に起きた自治体では、再発防止策として条例をつくるケースが目立つ。
18年に全国で初めて条例を施行した東京都狛江市では、当時の市長が女性職員2人に対し腰に手を回すなどのセクハラをしたと市の調査で確認され、市長は同年6月に辞職。市のハラスメント防止規則では市長は対象外だったため、議員提案で条例ができた。
今年6月に市長のパワハラやセクハラ行為8件が認定された福岡県宮若市でも、市長を対象にした条例の制定を検討している。
成蹊大の原昌登教授(労働法)は「大切なのは、組織内でハラスメントの防止や対応策についてしっかり議論し、ルールを作ることだ。条例は議会のチェックという外部の視点が入ることになり、選択肢の一つになる」と話す。
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