2022年6月26日日曜日

山梨県が自殺要因分析 独自の政策的アプローチで抑制へ

山梨県が自殺要因分析 独自の政策的アプローチで抑制へ

 

2022年6月26日() 22:00 産経新聞(平尾孝)

 

山梨県が新たな自殺防止対策に着手した。自殺に至るまでの背景や要因を独自の調査で分析、考察し、社会政策的なアプローチで対策を進めていくというものだ。県民性も考慮した考察を加えており、長崎幸太郎知事は「全国的にも例を見ない本県独特の取り組み」とする。

 

■対策推進本部発足

 

「自殺は、ともすれば個人の特別な事情で対処は困難とされてきたが、自殺を決意しなくてはならないような状況に、いかないようにすることが重要だ」

 

長崎知事は4月に発足した県の自殺防止対策推進本部の初回会合で強調した。

 

県内の自殺者数(居住地ベース)は、年によってばらつきはあるが、全国で中位から上位で推移し、高止まり状態。行政の重要課題の一つとなっている。これまで、自殺スポットとされる場所の街灯を明るくしたり、自殺を思いとどまるよう促す看板を設置したり、パトロールを強化したりするなど、水際的な防止施策を中心としてきた。

 

しかし今年、県内居住者の自殺の背景や要因を探る独自の調査を実施したことで、どのような状況が自殺リスクを高めるのかが見えてきた。

 

■県民性も考慮

 

調査は「定量」「定性」「個別」の3種類で実施。定量調査では、婚姻率や有効求人倍率、貯蓄など統計データと自殺率との相関を調べた。その結果、未婚率が高ければ、自殺率も高くなる傾向が確認された。

 

定性調査では、県内の自殺対策関係団体や精神科病院などにアンケートを行い、県民性や雇用・就業状況との関連をまとめた。人口が少なく移動も少ないため、価値観が多様になりづらい環境であることや、世間体を気にして悩みや不安を隠す傾向が、自殺率を上げている可能性が指摘された。

 

自殺未遂者のカルテから自殺を図った背景を調べる個別調査も実施。自殺を図った直前の要因は、病気の悩み・影響(鬱病・統合失調症などを含む精神疾患など)が24・1%、家族からのしつけ・叱責が9・8%、孤独感が8・9%、親子関係の不和が6・3%などと続いた。

 

自殺に至る連鎖の発端として、病気の悩み・影響が大きいものの、虐待を受けたことや、いじめなどが、その入り口にあることもわかった。

 

これらの調査から自殺に影響しているリスク要因を考察。県や県民の特性として、地縁的なコミュニティーが残り近隣との信頼が厚い一方で、社会的対面を気にする傾向が強く、人間関係が閉鎖的であることがリスクを高めているとした。

 

雇用に関連しては、共働きや超過労働など働き方との関連は確認できないものの、雇用状況の悪化が直接的な自殺リスクに影響していると推測。経済的な不安定に加え、就職していないことで地域社会での社会的地位が剝奪されてしまうことが、自殺につながると分析した。

 

■スポーツ継続を支援

 

県は、6月県議会に自殺防止対策に向けた補正予算案を提出した。

 

まず、自殺リスクのある人を支えるため、自殺の危険を示すサインに気づき、声掛けや見守りを行う「ゲートキーパー」を増やすこと、特に中高生に向けたユースゲートキーパー養成を進める。スポーツ実施率と自殺志望率に逆相関があるとの調査結果をもとに、人と人とのゆるやかなつながりの形成を進めるなかで、スポーツ活動を複数で継続することを支援する「スポーツ無尽」を新たに制度化することにも取り組む。

 

長崎知事は「コロナ禍は経済の低迷、孤独・孤立の深まりなど、自殺リスクを高めることが懸念される。対策は待ったなしだ」として、全庁的な自殺防止対策推進本部による早急な対応の必要性を強調する。

 

【山梨県の自殺リスクに関する考察】

 

●地縁的なコミュニティーが残り、人の流動性や多様性が低いことが自殺死亡率に関係している可能性がある

 

●婚姻が自殺リスクを低下させる。信頼できるパートナーがいることで自殺リスクを抑制する可能性がある

 

●雇用が自殺リスクに影響する可能性がある。就職していない状況は経済面だけでなく、地域社会での社会的地位剝奪の懸念

 

●貧困が自殺要因との意見が多い。将来の生活の安心感をもたらすことが自殺リスクを低下させる

 

●児童虐待は身体発達と人格形成に重大な影響を与え、自殺のリスク要因になり得る

 

●家族関係が悪化すると自殺リスクは高まる。ゲートキーパーの養成が不可欠


《カウンセラー松川のコメント》

自殺対策は国が行っておりますが、
それを山梨県では独自に分析して対策を講じようとしています。
その中には地域特性の一つである[県民性]にも着目。
この点では、全国を対象としている国の施策よりも
より効果的な対策が期待出来る可能性は高いです。
他の都道府県や市町村でも取り組みを期待したいです。

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