「女だからこんな被害に…」セクハラ受け退職した女性たち
被害なくすために必要なこと
2025年4月5日(土) 10:02 テレビ朝日
フジテレビの第三者委員会は、中居正広氏が元アナウンサーの女性に「業務の延長線上における性暴力」をしたと認定した。また第三者委員会の報告書では、男性幹部の女性社員へのハラスメントも認定されている。
職場で起きる性暴力やハラスメントは、フジテレビに限った問題ではない。「先輩にホテルに連れていかれそうになった」、「上司に付きまとわれた」。今年1月末、SNSには「#私が退職した本当の理由」が付けられ、セクハラやパワハラで退職を余儀なくされたという投稿が相次いだ。
被害を受けた女性たちは、なぜ退職せざるを得なかったのか。なぜ職場で女性が被害に遭い続けるのか。セクハラの被害に遭った女性の声や、性暴力根絶を訴える「フラワーデモ」を呼びかけた作家の北原みのりさんとともに考える。
(テレビ朝日デジタルニュース部 笠井理沙)
■男性の先輩に手を握られ…一方的なLINEで「好きです」
東京都内に住む30代の女性は、5年前、当時勤めていた会社の先輩の男性からセクハラを受けたという。
女性が新卒で入社したころから、同じ部署で働いていた男性。男性は「何でも相談できる、優しい先輩」だった。だが、2人で関わる仕事が多くなったことをきっかけに、男性は先輩と後輩以上の関係を求めるようになってきた。
女性
「プロジェクトの打ち上げのあと、2人で飲みに行こうと誘われました。仲のいい先輩だったので、何も疑わず飲みに行った。でも、飲んでいるときに『夫婦仲がうまく言っていない。いまの奥さんと離婚したら、〇〇(女性の名前)と結婚する』と言われ、驚きました。その後『手を握っていいか』と聞かれ、答える間もなく手を握られました」
女性はすぐに手を振り払った。突然のことに戸惑い、何も言えなかった。男性は、店を出たあとの帰り道でも再び女性の手を握り、指を絡ませてきた。
その日を境に、男性の行動はエスカレートする。女性の手を握りうれしかったこと、自分の近況など、毎日のようにLINEが送られてきた。最初のうちは返事を送っていたが、「気持ち悪い」と感じ、1カ月ほどで返信するのをやめた。それでも男性からのLINEは続く。仕事で必要な連絡も、社内メールではなくLINEで送られてくるようになり「見なくてはいけない状態」が続いた。手を握られてから1カ月半が過ぎたころ、男性から「好きです」とメッセージが届いた。
女性
「手を握られたことも、一方的なLINEが続いたことも受け流そうと思っていましたが、『好き』というメッセージはさすがに流せなかった。本当に気持ち悪くて、メッセージも無視しましたが、仕事では関わらないといけない。それでも、仕事に支障が出ることや、周囲の人たちから私が男性をそそのかしたと言われるのではと不安で、誰にも言えなかった。自分が我慢すれば済むことだと思っていました」
■セクハラ訴えたあとに異動 「女をやめたいと思った」
その後一旦は男性からの連絡は途絶えたが、1カ月が過ぎたころ「2人で食事をしたい」というLINEが届いた。女性は限界を感じ、会社に男性からのセクハラを訴えた。仕事に影響は出したくないと思った女性は、男性の表立った処分は望まず、男性と違う部署にしてほしいことを会社に伝えた。しかし、その後の辞令は意外なものだった。男性ではなく、女性が異動を命じられたのだ。
女性
「学生時代から憧れていた仕事でやりがいのある部署だったので、異動は本当に悔しかった。会社からはジョブローテーション的に判断したと言われましたが、納得できませんでした。被害を訴えなかったら異動しなかったのかなという気持ちが残りました」
女性はその後1年半ほど仕事を続けたが、転職した。「あの件、もう大丈夫だろ?」と幹部から男性と同じ部署にしたいという打診があり、転職を決意した。表向きの退職の理由は「ステップアップのため」だったが、男性からのセクハラと会社への不信感が大きなきっかけとなった。
女性
「被害を受けたことはずっと消えずに残っています。きちんと男性を処分してもらった方がよかったのか、でもそうしたら会社に居場所はなかっただろうなとも思うし、正解がない地獄みたいな感じが続いています。男性が今も同じ会社で、何事もなかったかのように働いているのを考えると、本当に悔しい。普通に仕事がしたいだけなのに、女だからこんな被害に遭うのかなって。女をやめたいとまで考えました」
今年1月末にSNSで相次いだ「#私が退職した本当の理由」を付けた投稿でも、女性のように、セクハラやパワハラによって退職を余儀なくされたというエピソードが語られた。女性は投稿を見て「被害に遭ったことを話していいんだ」と思えるようになったという。
■「私が悪かった」と思わされる女性たち
女性ユニオン東京 石上さやかさん
「投稿した人たちは、みんなセクハラやパワハラの被害を受けているのに、何も言えずに仕事を辞めてしまっています。そこが一番のポイントだと思います」
組合員の石上さんたちが活動する女性ユニオン東京は、1人で加入できる労働組合だ。職場で性暴力やパワハラを受けた女性たちからの相談が寄せられるが、その多くが職場で声を上げられずに退職に追い込まれた人だという。
女性ユニオン東京 執行委員 仁田裕子さん
「ジェンダー差別の根強い日本の社会では、被害者側をバッシングするような場面が多い。それも声を上げられない一つの理由だと思います。“私が悪かった”、“私が気を付けていれば”と自分を納得させようとする思考回路を作らされていると思います。女性たちは、つらく悔しい思いを抱え、清水の舞台から飛び降りるような思いで相談に来てくれています。相談に来てくれる女性たちが氷山の一角だというのは想像に難くありません」
「#私が退職した本当の理由」で明らかになった女性たちの訴え。石上さんは、会社だけでなく、一緒に働く一人一人が女性たちの訴えを重く受け止める必要があると指摘する。
女性ユニオン東京 石上さやかさん
「セクハラやパワハラは重大な『人権侵害』です。相手が嫌がることはやめようということがなぜこんなに浸透しないのか。経営者や加害者にとって、労働者同士が競い争うのが一番都合がいいです。向かうべきは被害者ではなく、加害者と組織にならないと現状は変わりません」
■女性に向けられる「性的な目線」 なくすため声を上げ続ける
女性たちの訴えは、性暴力を告発する「#me too」のように広まった。これまでずっと言えずにいた思いを、中居正広氏から被害を受けた女性に連帯するように、女性たちが声を上げ始めたのだ。
北原みのりさん
「女性たちの投稿を読んでいて、本当に痛ましかったし、悔しかった。こういう問題を許してはいけないという空気や、強い嫌悪感や怒りがこれだけ出るんだということに、とても驚きました」
そう話すのは、作家の北原みのりさんだ。北原さんは2019年、性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」を呼びかけた。活動は全国に広がり、今でも毎月11日に性暴力に抗議するデモが行われている。
「性暴力をなくそう」、「セクハラやパワハラをなくそう」という声は、デモやSNSの投稿など目に見える形で表れてきている。その一方で、後を絶たない被害。被害をなくしていくため、必要なことは何か。北原さんは、男性から女性に向けられる目線に課題があると指摘する。
北原みのりさん
「職場でも、女性を性的に見るという意識を持った男性があまりにも多いと思います。接待役にしたり、一方的な好意を抱いたり、女性が自分たちをどう楽しませてくれるのかという視点で女性たちを見ている。女性の年齢や容姿、振る舞いを見て、値段を付けていくというようなことが当たり前に行われている。そういう意識を変えていかないといけないと感じています」
北原さんは、社会全体の意識を変えていくため、声を上げ続けることが重要だと言う。
北原みのりさん
「今回の#私が退職した本当の理由も、#me tooも、何か起こったら、女性たちが集まって声を上げて行動するということが日本でも少しずつできてきている。それに対するレスポンスは薄いけれど、女性がどんどん変わることによって、男性たちが変わらざるを得ない状況に追い込むことができる。だから、変わりたいと思う側が声を上げ続けることが重要だなと感じています」
0 件のコメント:
コメントを投稿