2021年9月1日水曜日

「無理です。あんなことをされたら」後絶たぬマタハラ…上司から思わぬ言葉

「無理です。あんなことをされたら」後絶たぬマタハラ
…上司から思わぬ言葉

 

2021年9月1日() 11:14 西日本新聞(編集委員・河野賢治)

 

 働く女性が妊娠や出産を機に、職場で不当な扱いを受けるマタニティーハラスメント(マタハラ)が後を絶たない。解雇や退職勧奨をはじめ、心ない発言や嫌がらせを受けることもある。妊娠中から出産後まで長期間にわたって、上司だけでなく同僚も被害をもたらすのが特徴。相談件数は全国で年間7千件に上り、被害に遭った人は悲痛な声を上げている。

 

 福岡市の女性(36)は昨年秋、第1子を出産した。介護施設で働き、今は育児休業中。職場復帰は「無理です。あんなことをされたら」と首を振った。

 

 妊娠中に立てた計画では、育児休業を取った後、今年10月から仕事に戻るつもりだった。ところが出産直前、子どもの保育所入所が年度初めからでないと難しいと分かった。勤務先と相談し、予定を変更して今年4月から保育所に入れ、同時に復職することにした。

 

 保育所の予約ができたため責任者に伝えると、思わぬ言葉が返ってきた。復帰の条件として新たにケアマネジャーの資格を取るよう求められた。「子どもがいると夜勤に入れないよね?」「熱を出したら帰るでしょ?」。弱みを突くようなことも言われた。

 

 資格試験までは約9カ月。短期間で子育てと仕事をしながら勉強できるだろうか。迷っていると「もういいです」と突き放された。

 

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 保育所の入所時期が近づくと、今度は妊娠中の勤務態度を理由に復職を渋られた。

 

 「トイレに長時間こもっていた」「休憩中にソファで寝転がっていた」-。他のスタッフから苦情が出ていると伝えられ、復職前に職員間で話し合う必要があると言い渡された。

 

 「トイレが長いのはつわりで気分が悪かったから。横になったのも、具合が悪ければそうしていいと上司に言われたからなのに」

 

 勤務先との話が平行線をたどると、服務規律に反するとして退職届を出すよう促された。保育所の予約をキャンセルし、やはり育児休業を10月まで取ることにした。すると、休業後1週間以内に退職届を出すよう迫られた。

 

 男女雇用機会均等法や育児・介護休業法は、妊娠や出産、育児休業の取得を理由に、労働者に解雇などの不利益な扱いをすることを禁じている。にもかかわらず、数々の嫌がらせに直面したことで、育休終了時に辞める気持ちが強まった。

 

 「もう仕事をするのが怖くなりました。新しくどこかに勤めるのも『また同じことをされたら』と思うと迷います」

 

 マタハラ対策を巡り、国は2017年に二つの法律を改正し、事業主に防止措置を取るよう義務付けた。20年には、国や事業主の責任を明確にし、相談したことで不利益な扱いを受けないよう明記した。

 

 それでも全国の労働局に寄せられる相談は高止まりしている。「婚姻や妊娠、出産を理由とする不利益な取り扱い」や「妊娠・出産などに関するハラスメント」の相談は20年度、合計すると約7060件。1819年度も6千件台に上る。表面化していない被害もあるとみられる。

 

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 妊娠・出産を機に雇い止めをされたケースもある。

 

 九州在住の女性(38)は有期契約社員として、1年ごとに雇用契約を結んで働いてきた。妊娠が分かると職場に報告し、復帰の時期を話し合って決めた。それが出産目前の昨年夏、急に雇い止めを告げられた。

 

 通知書には理由として、顧客とのトラブルがあったと書かれていた。身に覚えはない。子どもを保育所に送迎しながら勤務すると新型コロナウイルス感染のリスクが職場で高まる-との記述もあった。

 

 責任を持って仕事をしてきたのに裏切られた思いになった。不眠や食欲不振に悩まされ、赤ちゃんを抱くと涙がこぼれた。

 

 女性は出産した時、入社5年目。労働契約法には、有期雇用が5年を超えて繰り返し更新された場合、期間の定めのない無期雇用に転換できるルールがある。法律上は来年4月から無期雇用になると期待していたが、かなわず退職した。

 

 「妊娠や出産、子育てをしながら働くことを嫌った雇い止めとしか考えられない。ずっと働きたかったのに」。女性の胸にはやりきれなさが残ったままだ。 

 

 マタニティーハラスメント
 働く女性が妊娠と出産を理由に、職場から解雇や雇い止めといった不当な扱いや、精神的・肉体的な嫌がらせを受けること。大きく2種類の形に分けられ、産前休業などの制度の利用を巡って阻まれたり、解雇などの不利益な取り扱いを示唆されたりする「制度利用への嫌がらせ」と、妊娠・出産に関する上司や同僚の言動で労働環境が害される「状態への嫌がらせ」がある。

 

記者コラム

 記事で紹介した女性2人は、子どもを産んだ後も同じ職場で働きたかった。それが妊娠を報告すると勤務先の態度が変わっていったという。心中を察するとやりきれない思いになる。

 

 マタハラは上司や同僚、事業所の不適切なルールなど、個人と組織の両方が「加害者」となる。性別も問わないようで、介護施設の女性(36)は出産を経験している同僚女性から嫌がらせを受けていた。

 

 法律には女性労働者を守る決まりがあっても、権利を主張して勤務先と話し合ううちに関係が悪くなり、退職する人もいる。残念ながら十分に機能していない面があるようだ。

 

 マタハラは女性を職場から排除する行為だ。妊娠、出産、育児に向き合う人をぞんざいに扱えば、本人を傷つけるだけでなく、他の働き手からもそっぽを向かれるだろう。事業主はそこをよく考えた方がいい。


《カウンセラー松川のコメント》

マタハラはパワハラやセクハラと異なり、
その殆どが作為的に行われているのが実態です。
よって、防止するのが最も簡単なハラスメントでもあります。
ところが、最も防止が困難なハラスメントでもあります。
それは、産休や育休が職場に与える悪影響が大きいからです。
雇用者としては働かない者を雇い続けなければなりませんし、
しかも、長期休暇と異なり1年以上に及ぶのですから
欠員補充をするならば、派遣社員や期間雇用等の別途出費も生じます。
同じ職場の者にとっては、欠員が生じる事で有形無形の負担が発生します。
よって、産休育休の使用に対して
本音では歓迎されない職場は少なくありません。
こんな背景があるので、労働者として当然の権利行使でありながら、
様々な違法な妨害を受けてしまうのです。
結婚や出産率が下がっている現状では、
表面的なマタハラ防止は可能でも、真の防止は困難でしょう。

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