セクハラはコミュニケーションの延長? 受け手の感じ方次第?
熊本市の資料に違和感 専門家や市、AIの見解は…
2025年6月9日(月) 9:29 熊本日日新聞
〈コミュニケーションの延長で行われやすい「性的な冗談やからかい」「身体的特徴を話題にする」「不適切な身体接触」が、受け手にセクハラと捉えられていることが分かる〉
職場でのセクハラ行為を巡って、熊本市が作成した資料の一文に違和感があった。セクハラはコミュニケーションの延長なのか、受け手の感じ方次第なのか─。もやもやの答えを探るため、市や専門家を取材した。
一文は市総務課のコンプライアンス推進室が、昨年度に実施した職場内ハラスメントに関する職員アンケートの結果を分析して作成した。5月下旬、市職員倫理審議会で報告した。
職場でセクハラを受けたと答えた職員の多くが、その内容として「性的な冗談やからかい、身体的特徴を話題にする」「不適切な身体接触」などを挙げた。
公務職場のハラスメント問題に詳しい神奈川県立保健福祉大大学院の津野香奈美教授は「そもそも性的な言動は業務に不必要。コミュニケーションかどうかにかかわらず、許容しない姿勢を明記すべきだ」と市の資料を問題視する。
さらに「セクハラの判断が受け手の主観だけで決まるという誤ったメッセージを与え、被害者が声を上げづらくなる。受け手次第となれば、加害者の行動の抑止や改善につながりにくい」とも指摘した。
改めて資料の表記を見て、記者の違和感の正体に気付いた。分析が加害者側の主張に寄っているのではないか、という疑問だ。
市のコンプライアンス推進室によると、「コミュニケーションの延長で行われやすいセクハラ」という表現は「職場での雑談や飲み会で性的な話をしたり、ボディタッチをしたりするなど、つい出やすい比較的ハードルの低い行為」を指すという。「でも、それを相手に被害と受け取られたらセクハラという流れを描きたかった。被害をありがちなこととして済ませる意図はない」と説明する。
市職員倫理審議会委員長の東健一郎弁護士は、市の表現に問題はないとする。「お疲れさまの意味で肩を触ったり、ねぎらいの意味で握手したりするなど、性的な意図はなくとも受け手からすれば苦痛といったグレーゾーンな部分をコミュニケーションの延長と表現するのであれば違和感はない」と話す。「受け手にセクハラと捉えられていることが分かる」との表現も「受け手の主観は判断材料にならざる得ないので問題ない」とみる。
表現の適否について見解は分かれた。答えはないのだろうか。
熊本市男女共同参画センター元館長で企画会社ミューズプランニング代表の藤井宥貴子さんに意見を求めると、意外な手法を勧められた。「無意識の偏見や不適切な表現を確認するには人工知能(AI)が有効ですよ」。インターネット上の膨大な言説を基にコンピューターが導き出した回答が、参考になるそうだ。
対話型の生成AI「チャットGPT」に市の資料の一文を入力し、人権・ジェンダーの観点から課題があるかどうかを尋ねてみた。答えはこうだ。
「①重大な差別や露骨なジェンダーの偏見は見受けられないが、セクハラを冗談の延長でついやってしまう無意識の行動としてやや軽く受けとめている印象②受け手のみを主語としたセクハラ認定の表記は加害者の行動責任をあいまいにする」
AIは資料の別の部分でも課題を指摘した。パワハラについて「相談をされた職員の大多数は、話を聞いてあげて助言したり、上司に報告してあげる、行為者に注意するなどの対応をとっている」という表現だ。
「『してあげる』という表現は相談者に対して上から目線に捉えられる可能性があるため、相手を尊重し対等な立場で行う傾聴を表現する際は避けるべきだ」と注文した。
AIの答えが正解とは限らない。藤井さんは「AIの指摘を基に議論を深めると、人権意識が磨かれる。セクハラの本質的な理解にもつながるのではないか」と提案する。
ハラスメントを取り巻く社会の視線は日々変化している。自分の無意識な言動が誰かを傷つけていないか、継続的に認識をアップデートすることがカギとなりそうだ。
職場のセクハラ
労働者の意に反する性的な内容の発言や行動によって労働条件や就業環境が害されることを指す。男女雇用機会均等法で事業者に防止措置が義務付けられている。判断基準については、厚生労働省が対策パンフレットで「受け手の主観を重視しつつも、被害防止の観点を踏まえれば一定の客観性が必要」と指摘。具体的には「認定には受け手・行為者だけでなく、周囲からの聞き取りも必要」としている。
《カウンセラー松川のコメント》
セクハラに限らず、
「ハラスメントの最大の要件は被害感情が発生するかどうか」
ここから始まります。
① 何等かの発言をした人
② その発言を投げかけられた人
③ その発言を耳にしてしまった人
関係者は、この3種類です。
①は加害者となる可能性がありますが、被害者が不在なら加害者になりません。
②は被害者となる可能性がありますが、必ずしも被害者とはなりません。
③も被害者となる可能性がありますが、必ずしも被害者とはなりません。
一般的には②が被害者となる例が多いですが、
時には③だけ被害者となる場合もあります。
言われた当人は嫌悪感を抱かなくても、
それを耳にしてしまった人、即ち③が嫌悪感を抱けば、
ハラスメントになる可能性が生まれます。
要するにハラスメントとは感情から生まれるものなのです。
性的な冗談を発しても、誰も嫌悪感を抱かなければ、
それはセクハラにはならないのです。
だから「何をすればハラスメントになる」と、
具体的な事例を挙げるのは無理なのです。
感情とは個人が個々に持っているものですから。
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