2021年6月6日日曜日

高額すぎる葬儀に不適切ケア…福祉現場のパワハラ支配

高額すぎる葬儀に不適切ケア…福祉現場のパワハラ支配

 

2021年6月6日() 20:00 産経新聞

 

「組織の体(てい)をなしていなかった」。今の責任者が自戒を込めて語ったその社会福祉法人は、自宅介護が困難な高齢者ら約200人の生活を預かっていた。神戸市灘区で、視覚障害者のための養護盲老人ホームなど5施設を運営する「六甲鶴寿園(かくじゅえん)」。昨年以降、無資格の医療行為など不適切なケアが相次いで発覚し、一部施設は市から1年間の事業停止処分を受けた。背景として指摘されるのが、前理事長の「力による支配」。私物化という表現では言い足りない、その実態は-。

 

不正の数々

弁護士らの第三者委員会が4月にまとめた法人の調査報告書。そこで認定された不正行為は多岐にわたっていた。法人の特養「きしろ荘」での無資格者による入所者への「胃ろう」(チューブで胃に直接栄養を送ること)は少なくとも2261回、「食道ろう」は約270回に及んでいた。


また、入所者に週に2回以上の「入浴または清拭(せいしき)」を行わなければ高齢者虐待防止法のネグレクトに該当しうるが、きしろ荘では実施されていなかった。


法人では慢性的な人員不足により、職員の時間外労働が常態化。労働基準監督署から是正勧告を受けても、タイムカードなどによる客観的な労務管理は行われず、職員は「時間外労働0」と鉛筆で書かされたという。

 

葬儀費用めぐる疑惑も 

「全体的に赤なんですよ。その中で(残業を)付けるということに関しては、はばかられてもらわれへんかな」


はばかる(=遠慮する)という独特の言い回しで、時間外労働を申告しないよう要求したのが、当時の女性理事長Aだった。夫のBも常務理事を務め、法人での権限は絶対的だったとされる。


たとえば法人の定期昇給は1ランク(施設長は3500~4250円)ずつと決まっていたが、Aに関してはある月に一気に21ランク(8万6500円)もアップ。給与上限額に達した後もさらに引き上げ、月に62万9千円の支給を受けた。65歳定年後も、内規で必要な理事会の決議なく給与を受け取り続けた。


また賞与とは別に、給与規定にない報酬を毎年40万円超受領。通勤手当もAB夫妻は規定に定められた額に加え、それぞれ3万円を受け取っていた。2人は同じ車で通勤しており、二重取りの状態だった。


報告書の記載の中でも、とりわけ目を引くのが葬儀費用の項目だ。施設で身寄りのない人が亡くなった場合は、市から補助が出る規格葬儀(約20万円)を出すのが一般的だったが、法人の養護老人ホーム「六甲台ビラ」で死亡したある入所者のケースでは、その人の資産をもとに、133万円もの高額な葬儀費用が計上されていた。


業者との通話記録によると、請求書の金額については「お礼の分」も含まれているとされ、業者はAらへのキックバックを示唆したという。

 

兵庫県警が捜査 

Aらが絶大な権限を握った要因として、第三者委は「パワーハラスメントによる精神的支配」を指摘。職員への長時間の叱責などのほか、入所者のズボンをいきなりずらして失禁の有無を確認したり、視覚障害者に「目が見えないんだから、お尻なんてまともにふけない」と侮辱的発言もしていた。


「前理事長の権限が大きく、組織としての体をなしてなかった。問題があってもそれを正す機能がなかった」。Aが問題の責任を取り辞職した後、理事から昇格した竹入正視理事長(84)はそう振り返り、「金の流れを組織として把握していなかった。問題に気づけなかった私にも責任の一端はある」と頭を下げた。


同法人に限らず、介護関連施設の人出不足は深刻だ。「介護労働安定センター」による令和元年度の調査によれば、介護サービスに従事する従業員の不足感を感じている事業所は全体で65・3%と半数を超える。最近は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、さらに現場の人員確保が困難になっているとみられる。


「慢性的な人出不足も相まって、違法行為と認識しながら自分がやらないと利用者の命が危ないというプレッシャーもあった」。きしろ荘で無資格医療を行っていた担当者の心境について、報告書はこう記載している。


きしろ荘での無資格医療をめぐっては、兵庫県警が今年3月、医師法違反容疑で法人の家宅捜索を行い、関連する資料などを押収した。ある捜査関係者は「無資格医療行為を行った当事者だけでなく、何らかの指示がなかったかどうかも含めて調べる」としている。


《カウンセラー松川のコメント》

慢性的な人手不足の業界で従業員に対して不正を行っても
従業員は退職もせず勤務。
[やり甲斐搾取]との言い方もありますが、
従業員も自らを犠牲にする必要があったのでしょうか?
入所者に対する使命感も理解出来ますが、
これは誤った使命感により入所者に対しても
結果的には迷惑を及ぼしていたのです。
従業員が短期間で退職する施設ならば、その噂はいつか広まり、
その様な悪質な施設に入る人も減らせた可能性はあります。

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