2021年6月1日火曜日

車で尾行、頸椎捻挫…パワハラでPTSDに 団交の鬼「泣き寝入りは絶対にさせない」

車で尾行、頸椎捻挫…パワハラでPTSD
 団交の鬼「泣き寝入りは絶対にさせない」

 

2021年6月1日() 10:31 西日本新聞

 

 「パワハラを認めさせ、謝罪させましょう」

 2月下旬、北九州市内のファミリーレストラン。1人でも加入できる労働組合「ふくほくユニオン」(福岡県福津市)の副委員長・志水輝美(70)は、子どものように年齢の離れた2人の男性たちを励ますように語りかけた。


 白髪でスリムな体格、時折のぞく視線は鋭い。ユニオン活動を通じ、1000以上の企業や団体と渡り合い、賃金未払いやパワハラ問題などを解決してきたすご腕の交渉人。向かい合う問題は、そんな志水にとっても難しいものだった。

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 2019730日。昭弘(35)=仮名=は職場で先輩から体当たりされ、頸椎(けいつい)捻挫のけがを負った。「おまえも同じ刑にするぞ」。同僚だったもう一人の男性(23)も同じ先輩からすごまれ、逃げるように会社を去った。


 職場は北九州市内の車の整備工場。先輩から昭弘へのパワハラは、入社した16年ごろから徐々にエスカレートしていった。「なんでせんのか」「言い訳するな」「できませんじゃ、つまらん」。車で尾行される嫌がらせを受けたこともある。「あいつと話すな」。先輩は、周囲に言いふらしていた。


 あの日。軽トラックの前で店長と話をしていた時に体当たりされ、「グキッ」という音がして、よろめいたのを昭弘は覚えている。


 首の痛みが治まらずに病院へ行き、7日間の加療が必要と診断された。労働基準監督署は202月、「同僚労働者の加害行為による災害」と労災認定した。


 体当たりの後、昭弘は思い出すと震えが止まらなくなった。不眠、めまい、頭痛などの症状も現れ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。


 会社は休んだまま。心療内科の看護師から、ユニオンへ相談するよう促され、199月に組合員となった。PTSDについても208月、全国的にも珍しい労災認定を受けた。

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 「ばか! 若者の人生を台無しにしているんだぞ」

 1910月に始まった会社側とユニオンの団体交渉の中で、志水は思わず声を荒らげた。当初、男性が求めていたのは、先輩からの誠意ある謝罪だけ。店長が目の前で見ていたのに、会社側は全く非を認めない。


 203月、5回目の団交が終わった後、昭弘は加害者や会社を相手取って慰謝料や休業の損害賠償を求め福岡地裁小倉支部に提訴した。


 裁判ありき、だったわけではない。提訴の前、志水は会社幹部と福岡市内のホテルで密に接触した。謝罪や賠償、再発防止を要求した。「持ち帰って協議します」。幹部はいったん引き取ったが、結局は実現しなかった。その後も団交は続き、10回を超えた。


 パワハラにほんろうされた若者への思いが志水を支える。昭弘は団交に出席しても、会社側の担当者とやりとりすると体が震え、職場復帰がかなわずにいる。昭弘の人生の空白を取り戻す闘い-。志水は、いつも以上に力が入っている。


 志水たちの闘いを元同僚の男性(23)も支える。「昭弘さんが一方的に怒鳴られるのを目撃した。昭弘さんと会話をしていると、私も一緒にのけ者扱いにされた。店長に相談して注意してもらったが、パワハラはなくならなかった」と証言を続ける。


 会社側は「裁判中でもあり、取材に応じられない」としている。パワハラをした先輩が整備士資格を持つベテランで、会社側が処分すると、工場運営が立ちゆかなくなる-。それが、謝罪などを拒否する背景にあると志水はみている。


 「会社側はこれまで、非を認めて謝罪する機会がいくらでもあったはずだ。けがも、PTSDでも労災認定されているのに、あきれるほかない」。そして、言い切った。「謝罪があるまで闘うだけだ。泣き寝入りは絶対にさせない」

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 「団交の鬼」。人は志水をそう呼ぶ。激しい労使交渉が賃上げや解雇の撤回につながり、定年まで勤め上げたユニオン組合員もいる。非正規労働者が今や約4割を占め、企業内組合の位置づけが相対的に低下を続ける中、ユニオンの社会的な役割は高まっている。その姿を追い、労働者の権利についてあらためて考える。(連載「団交の鬼~ブラック企業との闘い」より)=敬称略、この連載は竹次稔が担当します。


志水輝美(しみず・てるみ)

 長崎県出身。1969年に日本国有鉄道(国鉄)に入り、74年から労働組合活動に携わるようになる。国鉄を離れ、96年に連合福岡ユニオン結成に関わり、専任の書記長に就任した。副委員長を経て、2015年から特別執行委員。17年にはふくほくユニオンを結成し、副委員長に就任。両ユニオンに携わるダブルワーク中。


《カウンセラー松川のコメント》

会社で唯一の有資格者である社員が故に不法行為をしても
会社としての損害にならなければ黙認する。
有資格者を必要とする業種で、
その有資格者が1名しかいない企業ならば
この様な事案を起こす要因はあると思ってください。
現状では被害者が1名でも、その被害者への加害行為に飽きたり、
被害者が退職してしまえば、次の被害者が生まれるだけです。
そうなると今は被害者ではない社員も
「いつかは自分も被害者になるかも知れない」と考え
密かに退職を検討し実施するかも知れません。
場合によっては仲間を募っての退職に及ぶかも知れません。
また、加害者が社員にでなく経営者に対して
過大な要求を突きつける可能性も否定出来ません。
一人の社員を優遇した為に、他の社員に去られ、
不当な要求まで突きつけられて経営が成り立つでしょうか?
狭い業界ならば、同業者に知れ渡るのも時間の問題です。
人件費としては支出が増えても有資格者を増員し、
不良社員に対しては毅然とした態度を取れる経営者でなければ
真っ当な社員の勤務意欲も削がれますから業績向上は望めないでしょう。
今後の競争社会でも企業として生き残れるか怪しいです。
唯一の有資格者社員が去ったとして、
確実に次の有資格者を得られる保証もありません。
この点を経営者の方はしっかりと考えてください。

被害者の方へ
ここで謝罪を得られても、加害者が更生するとは限りません。
会社が加害者を唯一の有資格者として優遇を続ければ
いつか加害者から意趣返しされる可能性もあります。
また、会社から[面倒を起こした社員]と被害者でありながら
経営者や時として他の社員からも白眼視される事も覚悟してください。
世の中は被害者にばかり味方をするとは限りませんので。

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