2022年9月7日水曜日

「指導者のうそ」加担させられた生徒 部活動の閉ざされた人間関係 熊本・秀岳館高校サッカー部騒動の教訓 #燃え尽きる体育会

「指導者のうそ」加担させられた生徒
 部活動の閉ざされた人間関係
 熊本・秀岳館高校サッカー部騒動の教訓
 #燃え尽きる体育会

 

2022年9月7㈰() 18:00 熊本日日新聞(山本遼)

 

 4月下旬、熊本県八代市の秀岳館高校で明るみに出た男子サッカー部コーチによる部員への暴行と一連の騒動。部員たちが顔と名前を出して交流サイト(SNS)に謝罪動画を投稿したことでさらに波紋を広げた。「(俺は)間違えてねえよな」。投稿直後、男性監督は部員の生徒たちを同席させ、記者の前で自らの「うそ」を追認させた。なぜ部員たちは監督に従わざるをえなかったのか。なぜスポーツ界から暴力がなくならないのか。騒動を振り返り、教訓を探った。

 

無言の訴え 生徒の「射抜くような目」

 「申し訳ありません」。422日の夕方、生徒11人が顔を出して並び、それぞれ名前を名乗って謝罪する動画がツイッターなどに公開された。動画は1日足らずで再生回数が100万回を突破し、その後削除された。

 

 記者の取材は、生徒の謝罪動画が削除された23日夜に寮内で約1時間半あった。監督のインタビューが始まって10分ほどが過ぎたころ、謝罪動画に出ていた2人の部員が監督の指示を受けてコーチに呼ばれた。監督が「俺が間違ったこと言ったら(記者に)悪いけん。俺が間違っとったら、間違ってるって言えよ」と言うと、生徒は「はい、分かりました」とうなずき、少し離れた場所の椅子に座った。

 

 取材を受けた理由について監督は、まくしたてるように説明した。動画について「謝罪じゃなくて、『体罰が日常化』とか『暴力は日常茶飯事』とかニュースで流されたのを否定したかった」と主張した。動画は生徒たちの意志でウェブに上げたという説明を繰り返し、監督が生徒2人にたびたび追認を求める場面が強く印象に残った。

 

 「彼らは謝罪動画を上げたわけじゃないんです。間違えてねえよな」

 

 「おまえたちが『俺にやらされてる』とかいろいろ言われたけん、それは違うってことが言いたいってことだろ」

 

 「自分たち主導でやったんだってことが言いたいんだろ」

 

 「謝罪するために、このことを収めようとか大人にやらされて謝罪したとか、そんなことはないってことよね」

 

 いずれの問いかけにも、2人の生徒は「はい」と声をそろえた。疑念を挟ませないような、はっきりした口調だった。生徒の同席直後に、監督から「間違いがあったら指摘を」との趣旨の言葉があったが、生徒たちが異を唱えられる空気はなかった。

 

 インタビューの最中に生徒たちの様子を横目でうかがうと、2人は指導者たちの顔色を見つつ、記者に繰り返し射抜くような目を無言で向けてきたように感じた。

 

 向けられた視線にはどんな意味が込められていたのだろうか。うそを言わされていることに気付いてほしかったのか、閉鎖的な環境を訴えたかったのか。信じるに足る大人かどうか、記者を値踏みするような目かもしれなかった。

 

 30分ほど同席する中で、生徒2人が発言する機会は数えるほどだった。2人が監督の発言を訂正することはなかったが、監督が真実を話しているようには思えなかった。だが、そうした疑念をぶつけて、指導者のうその主張を看破できるだけの材料を、取材時に持ち合わせてはいなかった。

 

 ところが55日、学校が初めて記者会見を開くと、監督は謝罪動画の投稿について、10日あまり前、生徒を同席させて語った説明を大きく覆してみせた。

 

 学校側は動画に出る部員の人数や、マスクを外して名前を名乗って撮り直すように監督が指示したことなど、主導的立場だったことを認めた。監督は「生徒たちからの申し入れを受け、同じ気持ちだったので、そこに賛同して一緒に考えてまいりました」と、あくまで補佐的な立場を強調してみせたものの、あのインタビューの時、「生徒たちにうその片棒を担がせたのだ」とあきれる思いだった。

 

指導者と24時間ともに 閉ざされた部活動

 暴行をはじめとする一連の問題について、熊本県私学振興課は729日、秀岳館高校から提出された報告書に関して記者会見を開いた。県によると、学校側は問題発覚後の56月に報告書を提出したが、内容が不十分だとして再提出を求められていた。このため726日にA421ページの報告書を再提出した。

 

 県が報告をまとめた概要によると、暴行する動画に映っていた男性コーチに関しては、12年前にも暴力をふるっており、ほかの生徒が目撃していたケースもあった。ただ、被害者やほかの生徒から学校側に相談や報告などはなかった。

 

 3棟のサッカー部寮に2人ずつの寮監を置き、サッカー部指導者が交代で担当。監督も寮と隣接した住居に住み、サッカー部の生徒は監督や数名のコーチと24時間行動を共にする状況だった。

 

 加えて、野球部とサッカー部のみは、部員数が多いこともあり、同一部活の生徒でクラスを編成していた。担任もサッカー部の指導者だった。

 

 県は報告に対する評価として、サッカー部の人間関係について、次のように指摘している。

 

 「サッカー部の生徒のほとんどが、同じ学級での編成になっており、担任もサッカー部の指導者であるなど、寮生などは一日中サッカー部関係者と生活している。人間関係が固定化することにより、閉鎖的な状況が生まれ、問題等があった場合に声が上げにくい状況であった可能性も否定できず、今後、こうした課題も踏まえ、学級編成の見直しや、サッカー部関係者以外の担任や寮監の配置なども検討する必要がある」

 

 また、学校側は対応策として、部活動の外部指導者や非常勤職員を含む教職員への研修や、生徒が意見を出しやすく、相談をしやすい環境整備などに着手していることも報告。県は「引き続き再発防止策を確実に実行することが重要」として、今後も注視するとしている。

 

「聖域」から脱却を 声上げられる組織に

 今回の秀岳館高校サッカー部を巡る騒動の教訓は何か。学校や部活動での暴力に詳しい白石陽一・熊本大准教授(教育方法学)は「今回のような指導者から生徒への暴力は、氷山の一角であり、条件さえそろえばいつでも、どこでも、誰にでも起こりうる。体罰をした教員だけが悪いわけではなく、加害者を糾弾しても意味がない。成果至上主義で、結果を出すためにはやむを得ないということでむちゃをする。部活動や学校だけでなく、大人の社会にも起こり得ることであり、いわば日本文化の問題だ」と前置きした上で、指導方法の問題点を指摘する。

 

 例えば部活動の中で特徴的な大声でのあいさつや学校生活での細かな規則などのルール。「部活動は昔の軍隊と近く、上下関係は絶対だという論理が今も残っている。軍隊は、有能な指揮官と従順な兵士が求められる。あいさつや細かな決まりを設ける管理の仕方は、上の人間があらを見つけて叱りつけ、逆らえないようにするために軍隊で使われてきた手法だ」と説明する。

 

 スポーツの強豪校には全国各地から生徒が集まる学校もあり、多くの生徒たちが寮での集団生活を送る。秀岳館高校のように学校が寮を設置しているケースのほか、指導者が自宅を改装するなどして生徒を住まわせるケースもある。騒動後に辞職した監督も在任時は校内の宿舎で生活しており、インタビュー時には「一緒に過ごしている時間は家族より長い」と自負していた。

 

 白石准教授は「一体感を作り出す側面もあるが、寮に入ると24時間全ての生活がチェックされ、秘密もなく、上下関係もきつい」と弊害を挙げる。

 

 日々顔を合わせ、閉鎖的とも言える環境の中で、どうすれば内部から声を上げられる組織を作れるのか。「教員同士の関係と、教員と生徒の間の関係を分けて考える必要がある。生徒との関係については、教室で生徒が『分かりません』と言ったときに『なぜ分からないんだ』と叱り飛ばしたら、その生徒はもう何も言わなくなる。分かるまで何度でも『分かりません』と言えるように答え続けないと、対話なんてできない」と強調する。

 

 指導歴が長く、実績もある指導者ほど、部活動は〝聖域〟と化し、ほかの部活動指導者や同僚の教職員が口出ししにくい現状がある。「競技の専門分野の話は確かに難しいかもしれないが、指導の中でやっていいことと悪いことはある。相互にチェックする機会を設けるべきではないか」と白石准教授。「一遍に全て解決するような妙案はないが、教員が自分のクラスや部活、授業だけでも、生徒がものを言える環境になるよう、現状を一歩でも1ミリでも動かす方法を探さなければいけない」と指摘した。


《カウンセラー松川のコメント》

この記事の冒頭の言い訳がましい内容は記者の能力不足の懺悔なのか、
それとも私が感じたとおり言い訳なのか、よく分かりません。
今更感のある記事ですが、当時何も出来なかった事の悔しさを今更記事に。
申し訳ありませんが内容も当たり障りの無い凡百です。


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