2022年9月1日木曜日

「死にたい感情、異常ではない」松本俊彦医師 #こころの悩みSOS

「死にたい感情、異常ではない」松本俊彦医師 #こころの悩みSOS

 

2022年9月1日() 18:01 毎日新聞(北村栞、坂根真理)

 

 8月下旬から9月にかけての夏休み明けは子どもの自殺が増える傾向にあるが、そもそも人はなぜ「死にたい」と思うのだろうか。死を考える人が周囲にいたら、どんな態度で接したらいいのか。国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師(精神科)に話を聞いた。

 

 松本医師によると、「死にたい」という感情は精神疾患の一つであるうつ病とセットで語られることも多いが「死にたいと思うこと=うつ病」ではない。自殺した人の全てがうつ病を患っているわけでもないという。

 

 「死にたい」という気持ちが芽生える背景には、特定の神経伝達物質の減少が影響していると指摘する論文はあるものの未解明な点が多く、メカニズムは今も分かっていない。

 

死を望む理由は多様

 松本医師は「自ら命を絶とうと思う理由はさまざまで、心理的、環境的状況によると考えられる」と説明。現代人はさまざまなストレスにさらされており「死を一度も思い描いたことのない人の方が珍しいのではないか。『死にたい』という感情は異常ではなく、『異常な現実に対する正常な反応だ』というスタンスが大切だ」と指摘する。

 

 一方で、普段から「死にたい」と口にする人は自殺のリスクが高いことも分かっているという。生きていくうえで困難が積み重なり「死ぬ恐怖を割り引いても生きることが苦痛だ」と感じた時に、自分の体を傷つける行動につながる場合がある。「死にたい」という感情には波があり、その強度は上がったり下がったりするという。

 

 また、松本医師は「若い人の中には『消えたい』『いなくなりたい』などと言う人がいるが、これは『死にたい』という感情の前段階と考えられる」とも語る。こうした言葉が出てくる人は、幼い頃に虐待やいじめ、厳しい叱責などを受けて否定的な自己イメージが定着してしまっている場合が多いとされる。

 

説得ではなく共感を

 自分の周囲で「死にたい」と言う人がいたら、どう対処したらいいのか。一度も「死にたい」と思ったことがない人は、つい「ばかなことをするな」などと言ってしまうかもしれない。

 

 しかし、松本医師は、こうした対応が「最もまずい関わり方」だと警鐘を鳴らす。「苦しむ人に対して、自分の倫理観や道徳観をもって説得したり論破したりすることは有害だ」と強調する。

 

 「死にたい」という感情を頭ごなしに否定されると、その時は死を思いとどまるかもしれないが、次に死の感情が芽生えたときは「この人はどうせ分かってくれない」と思って相談しなくなる懸念があるという。

 

 かつて、毎日のように「死にたい」と考えていた時期があった長野県の男性(54)のエピソードを紹介したい。この男性は、仕事のストレスで眠れない日々が続き、体調を崩して失業した。

 

 転職活動がうまくいかず、23社連続で不採用になったことも。「僕は何のために生きているのだろう」。生活のために働く必要があるものの仕事は見つからず、「死にたい」と思う日々が続いた。

 

 そんな男性を苦しめたのは、世間でよく言われる「神様は乗り越えられる試練しか与えない」という言葉だった。「乗り越えられずに自殺したら、人間として失格なのか?」と、さらに追い込まれたという。

 

 男性を救ったのは、苦しい時に母親から「大丈夫!」と言ってもらったことだった。「大丈夫」と繰り返し言われることで安心できたという。「死にたい人に対して腫れ物に触るような扱いをするのではなく、声を掛けたり気に掛けたりしてほしい。いろいろ言われるのもつらいけど、放っておかれるのはもっとつらいですから」と男性は話す。

 

 松本医師は「苦しむ当事者に必要なのは正論や説得ではない。『死にたい』という感情を否定せず、その背景にあるものを具体的に聞いて共有することだ」と強調する。

 

当事者の声に耳を澄ませる

 まずは当時者の気持ちに寄り添い、なぜ「死にたい」と思うほどつらいのか、原因にじっくり耳を傾ける。「それだけ苦しい思いをしていたら、私なら死にたいと思うかもしれない」「気持ちを話してくれてありがとう」などと共感したり感謝の気持ちを伝えたりすることで、相手は心を開こうと思えるという。

 

 「支援者も一人で抱え込もうとせず、カウンセラーや周囲の人などに当事者をつないでほしい。支えてくれる人が複数いることは、当事者の安心感にもつながる」。松本医師は、こう呼び掛けている。


《カウンセラー松川のコメント》

追い詰められた人に対して「ガンバレ」が禁句なのは知られつつありますが、
それは声掛けをするだけで実際には当事者に寄り添っていない事が多いからです。
甘やかしとは異なりますが、当事者の声に耳を傾け、理解をする。
そうすることで当事者の[孤立感]を緩和することが出来ます。
「自分はひとりぼっちでない」と分かると、それだけでも気が楽になり、
自殺から遠退きます。
自殺をしようとする(希死念慮)人を一人だけにさせないのと
似ていると考えと構わないでしょう。
そして、寄り添う人への支援者も大切です。
本気で寄り添うとエネルギーの消費も大きいので、
そのままですと今度は支援者の心ダメージが出てしまいます。
問題解決は一人より二人。二人より多くの人。これを忘れないでください。

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