やる気マンマンの入社3年目社員が「ホワハラ」を理由に退職を希望
…どうしたら予防できた?どうやって引き止める?
2025年3月27日(木) 8:01 現代ビジネス(社会保険労務士
木村政美)
様々なハラスメントが問題になる現代において、「パワハラ」とは対極の「ホワハラ=ホワイトハラスメント」なるものも存在する。ホワハラは、上司や先輩が部下や後輩、同僚に対して仕事の負荷をかけないよう過剰に気を使って仕事や指示を与えないことを言う。受けた側は成長の機会を奪われたと感じるのだ。
実際にどんな行為がホワイトハラスメントにあたるのか?部下指導のさい「ホワハラ」を予防するポイントとは?事例をもとに、社会保険労務士の木村政美氏が解説する。
本記事の登場人物
A村さん:25歳。大学でインテリアデザインを学び、甲社の商品企画課に配属された。熱心で向上心があり、B中主任を尊敬している。しかし、入社後プロジェクトに参加させてもらえず、C松課長から雑務ばかり任されている。
B中主任:35歳。A村さんの隣席にいる先輩。これまでに複数のヒット商品を生み出しており、周囲から一目置かれる存在。A村さんは、B中主任が参加するプロジェクトミーティングを見学するたびに刺激を受けている。
C松課長:40歳。A村さんに雑務ばかりを指示し、プロジェクトに参加させない。A村さんが先輩の仕事を手伝いたいと申し出ても、「自分たちの仕事で君に残業させるわけにはいかない」と拒否する。
D森部長:45歳。甲社の総務部長。以前C松課長に、「仕事に慣れていない部下に過剰な仕事をさせない」ように注意した。今回は逆にA村さんの扱いをホワイトハラスメントではないかと指摘、C松課長を混乱させている。
ホワイトハラスメント(=ホワハラ)とは
ホワハラとは上司や先輩が部下や後輩、同僚に対して仕事の負荷をかけないようにと過剰に気を使って仕事や指示を与えないことで、結果的に精神的な負担を与え、成長の機会を奪う行為をいう。
ホワハラが誕生した背景は、2020年に施行された労働施策総合推進法の改正法(パワハラ防止法)により、パワハラやコンプライアンスへの意識が高まったことと関係が深い。適切な指導でもケースによってはパワハラと言われることに過敏反応した上司や先輩が、部下や後輩に対して指導などの接触を避けることで意思疎通や関係が希薄になり、結果としてホワハラが発生しやすくなったと考えられる。
上司と部下におけるホワハラの一例としては
・上司が「あとはこっちでやるから」と言って部下に残業をさせない。
・部下に負担をかけないよう、簡単な仕事ばかりを割り振る。
・部下に「そんなに頑張らなくてもいい」と言って自らが仕事を手伝う。
・メンバーであっても、「聞いているだけで大変だろう」と思い、ミーティングの参加者からはずす。
・運動会や社員旅行など休日に開催される会社行事には、「疲れるだろうから参加しなくていいよ」と言う。
・部下がミスや遅刻をしても「指摘したら傷つくかも」と思い、注意をしない。
などがあげられる。全体的に言えるのは、部下が求めていないにもかかわらず、上司の考えで勝手に業務量や業務内容を軽易なものに変更する、業務上の指導や注意をしないことである。
ホワハラの特徴は、ハラスメントの加害者となる上司には悪意がなく、むしろ部下の心身に過度な負担がかからないよう配慮していることだ。だからその言動に対して自分がハラスメントをしている自覚がないばかりか、部下思いのいい上司だと思われていることを期待している。しかしもし部下が「仕事面での成長を妨げ、キャリアアップの機会を奪うことは一種の嫌がらせだ」と感じた場合、ホワハラを受けたと思われる可能性があるのだ。
パワハラの定義とパワハラの6類型
ホワハラとパワーハラスメント(パワハラ)は密接な関係があるので、パワハラについて簡単に説明する。
パワハラとは、職場において行われる優越的な関係(抵抗や拒否ができない関係)を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えて労働者の就業環境が害されるものをいう。ただし、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導であれば、職場におけるパワハラには該当しない。
パワハラの類型には
・身体的な攻撃(暴行・傷害)
・精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
・過大な要求(わざと能力以上の仕事を与え、できないとなじる)
・過小な要求
・人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
・個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
の6つがある。
ホワハラとパワハラの関係
ホワハラとパワハラの関係性は、ホワハラの定義にあてはめると、パワハラでいう「過小な要求」に該当する。
過小な要求とは、業務上の合理性なく能力や経験とはかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことをいう。ここでいう業務上の合理性とは、人事的な理由で一時的に仕事がないもしくは軽易な業務を行う部署に配属される場合などがあてはまる。
上司が部下に対して行った業務上の配慮や気遣いでも、合理性がなければホワハラになる場合もあるし、合理的な理由があったとしても、伝え方を誤ると部下の思考にも影響が及び、成長実感のなさから離職に繋がることもある。
ホワハラを予防する方法
C松課長の言動は、A村さんやD森部長から見た場合、ホワハラの加害者だと思われている。確かに前任者との間に起ったトラブルのみの理由で、人手不足の状態にもかかわらずプロジェクトメンバーから外すことはA村さんの成長を妨げる行為だが、次の事項を考慮した指導をすることでホワハラ扱いは防げただろう。
(1) 自分が与えられている業務の役割について、重要性を理解してもらう
A村さんはC松課長から電話番やミーティングなどで利用する資料作成ばかりを指示され「自分の仕事は雑用ばかり」と思っている。しかし、新入課員として電話番をすることで部署と社内外の繋がりを理解し、資料作成は内容を確認することで仕事のノウハウを覚えることができるなど、それなりに意味があることではないだろうか。C松課長がA村さんに任せている業務の重要性をきちんと説明することで納得して業務に取り組むことができるはずだ。
(2) 部下のキャリアアップを後押しする
A村さんは、C松課長がいつ自分をプロジェクトメンバーに指名するのかがわからず、モチベーションの低下を招いている。C松課長はA村さんにプロジェクトメンバー入りの基準や時期を明確にすること、その後も必要に応じてキャリアアップのための指導やサポートを行うことが重要だ。
(3) コミュニケーションの強化をはかる
上司や先輩に対して、積極的に自分の意見や希望を話せるような職場環境の形成に努めることで、部署全体の業務効率の向上にも繋がる。前任者を含め新入課員とのコミュニケーションに難があるC松課長に比べ、B中主任はA村さんとのコミュニケーションが上手く取れていた。彼の希望を真摯に受け止め、C松課長に進言したのは良い例である。
(4) 人員配置や適性を踏まえたマネジメントをおこなう
もともと企画の仕事を希望していたA村さんと、定期人事異動で部署に配属された前任者とでは仕事に対するモチベーションや能力差がある。C松課長は個人ミーティングなどを通じて部下の現状を把握し、強みや特性を活かしつつ適切な役割や任務を割り当てることが求められる。
気になるA村さんのその後
A村さんからの退職届は本人を説得しいったん保留にしたが、C松課長から配置転換の話を出され途方に暮れたD森部長は、B中主任を呼び状況を説明したところで、「君はどう思う?」と尋ねた。
「A村さんはウチの課を希望して配属されたのでやる気があり、課長から指示された業務もそつなくこなしています。そこは定期人事異動に渋々応じた前任者とは違います。特に私が今担当しているチームは人手が足りないので、ぜひメンバーに入れたいです。じゃないといつまでたっても彼は仕事を覚えられません。4月には後輩が入るので今の状態ではマズイでしょう?」
「でもC松課長がOKするだろうか?前任者にパワハラ呼ばわりされたトラウマがあるみたいだし…⋯」
「それは、企画経験がない彼をいきなり当時いちばん大変なプロジェクトに入れた課長のミスです。今回はそこまで難儀ではないし、私もA村さんには気を配るようにします」
「わかった。よろしく頼む。C松課長はこっちで説得するよ」
D森部長の説得に応じたC松課長は翌日、A村さんのプロジェクトメンバー入りを正式に決めた。知らせを聞いたA村さんはすぐに退職届を撤回した。そしてC松課長は正式に他部署への異動を願い出た。そして……。
プロジェクト発足日の朝、A村さんに衝撃が走った。B中主任がC松課長の後任として急遽昇進したのだ。これからは課全体の総括者となるため、自らプロジェクトチームを率いることはなくなる。
「せっかくアピールしたのに、もうB中主任と一緒に仕事できないなんて……」
ショックで顔が曇ったA村さんを見たB中課長は笑顔で言った。
「大丈夫。週に2回の個人ミーティングで自分のノウハウをしっかり教えるから、わからないことがあったら何でも聞いてね」
A村さんは安どの表情で頷いた。
《カウンセラー松川のコメント》
「ホワイトハラスメント」なる新たなハラスメントが生まれつつある様です。
筆者によると「過小な要求」とのことですが、
・ミーティングの参加者からはずす
・休日に開催される会社行事には「参加しなくていいよ」と言う
これは「人間関係からの切り離し」に該当です。
そもそも「パワハラ」となる言葉を中途半端に知ってしまった新人が
嫌な思いをすると「パワハラだ」と声を上げてしまう点が問題であり、
この対策を採らないままに、職場の中堅者が指導教育をし難い環境が作られ
それが「事なかれ主義」に至ってしまったのが原因です。
今や「触らぬ神に祟りなし」なのが職場の常識となりつつあります。
それを逆手に取って「ホワハラ」とされてしまったのでは、
教える側は手詰まりとなってしまいます。
この事例では、円満に解決していますが、
世の中はそんなに都合良くは回りません。
ハラスメントを擁護する訳ではありませんが、
気に入らなければ何でもハラスメントにしてしまう風潮を改めない限り
ホワイトハラスメントの次にクリアハラスメントが待ち構えているだけだと思います。
・先輩上司は指導せず、分からない部分は自力学習
・不明点があれば質問をして、それに対して事務的に回答
・ミスが発生すれば、それは本人の責任(=自己責任)
そんな時代になるはずです。