2021年3月26日金曜日

深刻化増す「カスハラ」 理不尽な客から身を守るには

深刻化増す「カスハラ」 理不尽な客から身を守るには

 

2021年3月26日() 20:06 北海道新聞(小林基秀)

 

 最近、カスタマーハラスメント(カスハラ)という言葉を多く聞くようになりました。理不尽なクレームで店に居座ったり、返金を要求したり、些細(ささい)なことで店員に土下座を強要したり…。中には犯罪になり得るものもあるようです。カスハラを受けた側はどう対応すればいいのか、札幌弁護士会の阿部竜司弁護士に聞きました。(聞き手 小林基秀)

 

■長時間居座り、電話で何度も抗議…

 

――カスハラの定義を教えてください。

 

 直訳すると、「カスタマー=顧客」、「ハラスメント=嫌がらせ」で、社会的には、「顧客という立場を利用して行われる、法的正当性のない不当な要求や、理不尽な悪質クレーム等」を総称する言葉として使われています。

 

――具体例はどんなものがありますか。

 

 例えば、飲食店のランチで、弁当についているようなミニパック調味料の追加を頼んだら、店から「追加料金がかかる」と言われた客が、「納得いかない」と抗議。店側が「今回は説明不足ということで料金は頂きません」と譲歩したのに、客が「そういうことではないだろう」と飲食代金の全額返還を要求して長時間居座り、その後も店側に何度も電話で抗議してきたという事例があります。

 

 また、社会人向けのビジネススキル講座で、大半のプログラムを受講後に、受講生が自分の都合で残りのプログラムを欠席したのに、受講料の全額返還を求めてきた事例もありました。両ケースとも、弁護士が客に何度も説明することで収まりましたが、業者側にとっては物理的にも精神的にも負担になります。

 

――不当、理不尽な要求に思えますが、要求する側はそれを承知で何らかの対価を得ることが目的なのか、自分の主張が正しいと思っているのか、どちらでしょうか。

 

 両方あります。先ほどの飲食店のケースは後者でしょう。その客にとって得られる対価は最大でもランチ代にすぎません。単純な経済的合理性の観点から見れば、何度も長時間にわたり抗議する労力に見合っているとは考えにくいですよね。ですから、(その方は)独自の価値観、正義感を持っており、その主張をどうにか相手に認めさせたいと考えているのでしょう。他方で、受講料のケースはそれなりの額でしたから、お金を取り戻したいという思いもあったかもしれません。

 

■暴力的行為、迷わず警察へ

――カスハラと正当なクレームの違い、分岐点は。

 

 法的責任の有無や、社会通念上一般的に求められる範囲の顧客サービスを逸脱するような要求をしてきているかどうかがポイントです。例えば買った商品が不良品だった場合、交換や返金を求めることは当然ですし、不良品だったという事実をインターネット上に書き込むことは不当とはいえません。あるいは、この商品は役に立たなかった、レストランのこの料理がおいしくなかったといった書き込みは、個人の主観に基づく評価にすぎませんので、店側は受忍すべき内容でしょう。一方、虚偽の内容を書き込めば、名誉毀損(きそん)や信用毀損になる可能性が出てきます。また、企業側の問題点の指摘という範囲を超えて、例えば1人で複数のアカウントを取得し、あたかも複数人が当該企業に対して悪い印象を持っているかのようなネット上の書き込みを行うことも、一種の虚偽の書き込みとみなされ、違法性を問われる可能性があります。

 

――カスハラの中には、迷惑行為を超えて、いま話があった名誉毀損、信用毀損を含め法律に抵触する行為も多いのでしょうか。

 

 その通りです。例えば店員が身の危険を感じるほど怒鳴ったり、「殺すぞ」などと脅したりしたら脅迫罪に問われるかもしれません。怒鳴らないとしても店に長時間居座れば不退去罪に、店員に土下座させる行為は強要罪、暴力を振るえば暴行罪や傷害罪になる可能性があります。店員への盗撮は迷惑防止条例、接触行為は強制わいせつ、つきまといはストーカー規制法に抵触する場合もないとはいえません。

 

――被害を受けた店や企業側はどう対処すれば良いか。警察への通報は有効でしょうか。

 

 基本的には、不当な要求等は毅然(きぜん)と拒絶しつつ、まともに取っ組み合うのではなく、相手を「かわす」、「受け流す」というような対応をおすすめすることが多いです。カスハラを行ってくる相手は法律や一般社会通念とは異なる独自の価値観や正義感で行動しており、かつ、自分の正当性を主張する議論等を好む傾向にあります。そのため、まともに取っ組みあっても企業側が疲弊するだけであり、問題の早期解決という観点からはリスクが大きいためです。

 

 もっとも、店舗や事務所での長時間の居座りや、暴力的な行為などがあった場合には、躊躇(ちゅうちょ)することなく警察へ通報するという選択肢を常に持っていることが必要です。先に説明したように、長時間の居座りは不退去罪、暴力的行為に対しては暴行罪や傷害罪といった犯罪行為の可能性が生じるため、警察もきちんと現場に来てくれます。現行犯逮捕には至らないにしても、犯罪の発生を予防するため、居座りの場合には相手に帰宅を促したり諭したりといった、事態の収束につながる対応をしてくれることが期待できます。

 

――カスハラ行為に対し、企業側が損害賠償請求など民事訴訟に発展した事例もあるのでしょうか。

 

 カスハラではよほどのことがない限り、企業側から相手方に損害賠償請求を行うことはあまりありません。相手との紛争状態を助長させてしまうリスクが上がることに比して、損害賠償が認められたとしても企業にとってはたいした額にはならず、メリットが少ないからです。ただし、相手が法的正当性のない要求をあまりにも繰り返し続けてきており、その都度対応することに社員が疲弊している状況等が続くようであれば、要求を受けている側が原告となって、裁判所に対し、相手が要求しているような法的な債務は存在しない(金銭請求等に応じる法的義務はない)ことを確認してもらう「債務不存在確認請求訴訟」を起こす、という手段を検討することはあります。また、ネット上の書き込みが名誉毀損、信用毀損に相当する内容でも、放置するといつまでも残ってしまう恐れがあるので、削除させるために訴訟を起こすことはあり得ます。

 

――諸外国でもカスハラは多いのでしょうか。日本の「お客さまは神様」という意識が強すぎるという見方はできますか。

 

 外国に比べて、必要以上に顧客に対して下手に出てしまいがちなところがあるという文化が影響していると思います。特に従業員は最終責任者ではないので、顧客とのトラブルで後から上司に怒られたくないという思いもあるかもしれません。

■対処に困ったら弁護士へ相談を

 

――従業員が被害を訴えているのに、店や企業側が従業員を守る対策を取らず、我慢を強いるケースもあるのでは。その場合、従業員はどこに相談すればよいのでしょうか。

 

 労働契約において、使用者は従業員が安全で健康に働ける環境を整える法的義務があります。顧客の度を超した要求で従業員が疲弊しているのに、使用者つまり企業側が対応しなければ、「安全配慮義務違反」に問われる可能性もあります。報道によると、厚労省は新年度、企業向けにカスハラ対応マニュアルを策定する方針です。パワハラやセクハラはすでに指針があり、カスハラに関しても企業に注意喚起をする目的です。もし、企業側が対応してくれなければ、他のハラスメント問題と同様に都道府県の労働局等で相談に乗ってもらえるようになるのではないかと思います。

 

――カスハラ対応に関し、アドバイスをお願いします。

 

 カスハラをしてくる人はほとんどの場合、独自のものの見方をするため、多くの方が思うような社会常識が通じません。もしカスハラと思われる場面に対処せざるを得ない場合には、相手とまともに議論したり、こちらの正当性を真正面から納得させようと考えたりせず、「双方の見解は不一致のまま平行線となって当たり前」、「相手に『納得』してもらうのではなく、企業側への要求等を『断念』してもらう。諦めてもらう」というのが問題解決に向けた達成目標だと考えるようにしましょう。

 

 対処に困り、対応する社員さんが疲弊しているような状況になった場合には弁護士へのご相談もご検討ください。法律及び交渉事の専門家の立場から、効果性のある対処方法について助言し、場合によっては弁護士が代理人として矢面に立つことで社員さんの負担を軽減し、かつ、相手の「断念」という目標も達成しやすくなることがあります。顧問契約があれば迅速に相談し、対応することができると思います。

 

<阿部竜司(あべ りゅうじ)弁護士>1983年旭川生まれ、札幌育ち。札幌旭丘高から明治大法学部に進み、2010年北大法科大学院修了。同年に司法試験に合格し、11年に札幌弁護士会登録。16年、札幌市中央区に「阿部竜司法律事務所」を開設。小中高と野球に打ち込んだ。大学時代は登山サークルに入り、日本アルプスなどを歩いた。現在は札幌弁護士会の野球部に所属し、ポジションはキャッチャー。弁護士会への加入は早くても20代後半のため、「30代~40代がチームの中核」。全国の弁護士会同士で戦う全国野球大会で優勝を目指している。休日はコロナ禍の影響もあり、最近は妻や息子たちとのんびり過ごすことが多い。

 

<取材を終えて>

 深夜や早朝にコンビニエンスストアに行くと、外国出身の店員さんが対応してくれることが多くなったと感じます。中には日本語が堪能ではない人もいて、レジでまごつくこともあります。留学生だと思われる若者が、異国の地で学費を稼ぐために、言葉に不安を感じながら夜中に働いてくれている。その人に乱暴な言葉を浴びせたり、謝罪を要求したりして、何が得られるというのでしょうか。カスハラも含めたハラスメントは、犯罪行為にならないとしても人権侵害です。それを社会の共通認識にしていきたいと思います。


《カウンセラー松川のコメント》

長文の記事ですが、
カスハラについて解説しているのは新聞としては珍しいので
掲載してみました。
お客様はお金を払ってくださる。
即ち、企業に利益をもたらす人なので、なかなか邪険には扱えません。
その企業の弱味につけ込んでの理不尽な言動や不当な要求がカスハラです。
企業としては利益も大切ですが、真っ当な従業員を守る為には
尋常でない客に対しては毅然とした態度を取ることが大切だと思います。

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